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 15歳で仏門に入り、朝から晩まで掃除と修行の日々を過ごし、28歳で最も苛烈な修行といわれる「千日回峰行」に挑んだ光永圓道(みつなが・えんどう)。地球1周分に相当する約4万キロメートルを7年かけて徒歩で巡礼し、9日間にわたって断食・断水・不眠・不臥で不動明王を念じる千日回峰行は、平安時代から1000年以上続く、命がけの難行苦行の修行です。

 『比叡山大阿闍梨 心を掃除する』は、光永圓道大阿闍梨が天台仏教、そして荒行で体得した「良く生きるための気づき」を、掃除という万人共通の生活行動を通して説く、唯一無二の人生哲学書です。

 やらされるのではなくやる、身の回りを整理することで心を切り替える、まずは美しい所作から身につけるなど、今日より明日をよりよく生きるためのヒントを同書より紹介します。(全2回の1回目。後篇を読む)


毎日必ず使う「トイレ、風呂、台所」

 毎日の掃除は、具体的にどこまできれいにすればよいのでしょうか。この「どこまで」には、3つのポイントがあるように思います。

 1つ目は、家の中のうち「どこまでの範囲」を毎日掃除するのか。

 私が小僧をさせていただいた明王堂では、日常生活を送る空間については毎日すべてを掃除していましたが、これは数多くの小僧がいてこそ可能になる範囲なので、一般のご家庭で倣うにはいささか無理があります。

 掃除の基本は「(汚れを落として)もとに戻すこと」ですから、優先して考えるべきは、汚れが蓄積しやすい場所でしょう。トイレ、お風呂、洗面所、台所あたりがすぐに浮かびます。

 2つ目は、毎日の掃除に「どこまでの時間」を割くべきか。

 これも難しいポイントです。皆さま、それぞれ異なるライフスタイルをお持ちですから、時刻表の雛型のようなものは作れません。けれど、全員の暮らしに共通するタイミングはあるのです。

 何時に起きて、何時から家事や仕事で、何時に就寝という時刻がバラバラでも、たとえばトイレに行かない人はいません。あるいは風呂に入らない人も、台所をまったく使わないという人もいないでしょう。

 だとすれば、毎日かならず使う場所については、「掃除のための時間」という括りから外してしまってはいかがでしょうか。それらの場所の簡単な清掃については、特別に時間を割くのではなく、「日常で使う時間」の中に組み込んでしまうのです。

トイレ:毎朝、最初に使った後に、掃除。
風呂:毎晩、最後に使った後に、掃除。
台所:夕食の後に、掃除。

2022.11.25(金)
文=光永圓道