そう、自分はサボってばかりだったのだ。
数字を意識すると、数字を比べてみたくなる。自分より勉強している人はどれくらいいるのか?
東大合格者はどれくらい勉強しているのか? そんなことを考えるようになったのだ。
ネットで調べると、案外簡単に東大合格者の勉強時間のデータを見つけることができた。そこには「学校の授業時間を除いて週50時間」と書いてある。「平日5時間で、休日12時間ちょいってことか。結構きついな」。だが、達成できない数字ではない気もした。次の目標が決まった瞬間だった。
今思うと、数字を意識するというのは、こんな風に自分の勉強をより前に進めていくのに最適なものなのだと感じる。10時間より12時間。10位より9位。D判定よりC判定とか。少しずつ前に進むためには、数字が役に立つ。それを師匠は伝えたいのかもしれないと思った。
2、東大に行くのだと、周りに公言する
まず「一体どういうつもりだ?」と先生に聞かれた。
なんの話かはすぐにわかる。僕が志望大学調査書に「東京大学」なんて書いたからだ。
「お前、本当に東大に行くつもりなのか」
担任の佐藤先生は聞いてきた。別にこの先生とは特別仲が悪いわけではない。ないのだが、流石にクラスの落ちこぼれみたいな生徒がいきなり「東大目指します」って言って、「よっしゃ頑張れ!」ってなるような関係ではない。
それでも、師匠に言われたのは、とにかく公言しろ、ということだった。ならもう、反対されるのが目に見えているとしても、言わなければならない。その先で、バカにされたり、怒られたり、考え直せと言われたりしたとしても、だ。
「そうか。まあ、じゃあ、仕方ない」
だが、想定されるはずの反論はこなかった。
「じゃあ科目選択は、お前は文系だから2科目だろ? そうするとこのカリキュラムで……」
「えっ、先生」
たまらず、僕は話を遮る。
「反対しないんですか?」
先生は僕の顔をよく見て、こう言った。
2022.10.29(土)
文=西岡壱誠