先祖の歴史と人種のアイデンティティをビジュアルアートに
◆視覚芸術:キャリー・メイ・ウィームス×カミラ・ロドリゲス・トリアーナ
「メントーを持つということはギフトです。私はカミラに会った時に、彼女を次のレベルに持ちあげることができると感じました」と話すのは、視覚芸術のメントーであるキャリー・メイ・ウィームスだ。
彼女はアフリカ系アメリカ人女性のアイデンティティを捉える写真家として名高く、社会的テーマに切り込むビジュアルアーティストだ。そのメイ・ウィームスが選んだのは、コロンビア出身のビジュアルアーティスト、カミラ・ロドリゲス・トリアーナだ。
二人とも社会問題と人種的アイデンティティを模索する共通項があり、そこを重視したとウィームスはいう。
「私にとって、キャリー・メイを定義する言葉は、寛大さです」とトリアーナは言う。
「光を手にし、それを他者と分かち合うのです。彼女は私に本当に多くのことを教えてくれました」
新型コロナウイルスにより、ウィームスがNYのシラキュース、トリアーナがフランスと離ればなれになっていたが、オンラインを通じてプロジェクトに取り組んだ。
そしてロレックス アート・ウィークエンドで、世界初公開された作品が、『パトリモニオ・メスティーソ(Patrimonio Mestizo)』だ。日本語に訳すと、「メスティーソの遺産」という意味になる。
トリアーナは、「メスティーサ」(ヨーロッパ人種とアメリカ先住民の祖先を持つ女性を指す)として、文化的には黒人や白人、そして先住民族のコミュニティのどこからも、自分たちの一員として扱われず、先祖伝来の文化を継承することも学ぶこともできなかった。
その否定された文化継承に、再びアプローチするものとして、彼女が作りあげたのがミクストメディアの作品だ。
「自分が受け継げなかった文化と、すべての先祖たちが受けた痛みや暴力の歴史を修復したいと感じました」とトリアーナは話す。彼女はステッチ、糸、テキスタイルを使って、自分の考えを表現するインスタレーションを制作した。
そして先祖であるアンデス人の宇宙観を基に、先祖たちが住むウカ・パチャ、生誕から死までの一時的な世界であるカイ・パチャ、神々の住むハナン・パチャを再構築した。
「ロレックス アート・ウィークエンド」では、アメリカ大陸を植民地化した歴史の本や木の枝に、伝統的に女性の工芸とされてきた刺繍などの手作業を組み合わせ、また写真などのビジュアルアート、そして今作品のために作られた曲の演奏と合唱によるミクストメディアの作品が披露された。
まさにアイデンティティと社会を探り続けるメントーと、それを新たに継承していくプロトジェのコラボレーションが結実したステージとなった。
2023-2024年度のメントー&プロトジェが発表され、新たな未来がここから始まる
こうして大きな芸術的成果を披露した「ロレックス アート・ウィークエンド」だが、次のサイクルとなる2023-2024年度のメントー&プロトジェも発表された。
視覚芸術のカテゴリーでは、ガーナ人芸術家のエル・アナツイがメントー、南アフリカのアーティストであるブロンウィン・カッツがプロトジェとなる。文学のカテゴリーは、イギリス在住でブッカー賞受賞、および英国王立文学協会の会長を務めているベルナルディン・エヴァリストがメントー、セネガル在住のガーナ人作家、アイシャ・ハルーナ・アッタがプロトジェとなる。
映画のカテゴリーでは、『長江哀歌』で名高い中国人監督のジャ・ジャンクーがメントーを務め、フィリピン人監督のラファエル・マヌエルがプロトジェに。建築のカテゴリーでは、プリツカー建築賞を受賞したアン・ラカトンがメントー、レバノン系アルメニア人の建築家でデザイナー、アリン・アプラハミアンがプロトジェに選ばれた。
そして音楽のカテゴリーでは、グラミー賞受賞者のダイアン・リーヴスがメントーとなり、韓国出身のジャズシンガーで作曲家であるソン・イ・ジョンがプロトジェとなる。
2024年には、どのように芸術の未来が花開くのか期待したい。
ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ
2022.10.31(月)
文=黒部エリ