2023年度の応募受付を開始した「ロレックス賞」。ロレックスが1976年に創設し、より良き世界を目指すための独創的なプロジェクトに挑む個人に授与してきたアワードです。受賞者の中には、革新的な着想と強い信念でさまざまな課題解決に挑む、多くの女性たちの姿もあります。
パイオニアをサポートする「ロレックス賞」

気候変動や資源保護、貧困、不平等……。さまざまな課題が今、私たちに差し迫っています。「SDGs」というワードを見聞きしない日はないことからも、いかにこの社会が危機的状況にあるか、推し量ることができるでしょう。
そんな数々の困難な課題について、45年以上にわたって深く関わり続けてきたのがロレックスです。
1976年、ロレックスは、初の防水腕時計であり、ブランドのアイコンでもあるロレックス オイスターの誕生50周年を記念し、「ロレックス賞」を創設しました。人々の生活の向上と地球保護のための課題解決に取り組みながらも、既存のスポンサー支援などを受けることが難しい世界中のパイオニアたちを支援する、コーポレート フィランソロピーです。現在では、2019年にロレックスがスタートさせた環境保護への取り組み「パーペチュアル プラネット」イニシアチブの一環にもなっています。

ロレックス賞にはこれまでに35,000以上の応募が寄せられ、科学と医療、環境、応用技術、探検、文化遺産の5つの分野で155名の受賞者を選出。彼らはロレックスの支援を受けながら、独自のインスピレーションあふれるプロジェクトに挑み続けています。
もうひとつ注目すべき点は、ロレックス賞の応募資格が「18歳以上であれば誰でも可能」となっていること。学術性や専門的なキャリアのみが重要視されることはありません。世界をより良きものにするための革新的なプロジェクトに挑んでいることがロレックス賞にとって重要な条件なのです。
プラスチック問題に取り組むミランダ・ワン

たとえば、2019年度の受賞者を見てみましょう。脊髄損傷の研究を続けるフランス人医療科学者、野生動物と人間の衝突削減に取り組むインド人保全科学者、アマゾンの世界最大淡水魚の保護活動に注力しているブラジル人保護活動家、血液サンプルが不要なマラリヤ検査機器を開発したウガンダ人ITスペシャリスト……。テーマも地域も多岐にわたり、既存の概念にとらわれないロレックス賞の先見性がうかがわれます。
プラスチック廃棄物の再生利用に成功した中国系カナダ人ハイテク起業家ミランダ・ワンも、2019年度の受賞者の一人です。
プラスチック廃棄物は、あまたある環境課題の中でもとくに緊急性が高く、深刻なもののひとつです。世界中の使用済みプラスチックのうち、現在リサイクルされているのはほんの10分の1にも満たないとされ、残る多くが廃棄物となって溢れかえり、環境破壊を引き起こす原因にもなっています。
10代の頃に学校の校外学習で廃棄物処理場を見学したワンは、親友のジーニー・ヤオと共に、この課題解決を決意。7年をかけてさまざまな打開策を探り、ついに、ヤオと共同設立した企業においてユニークな化学的リサイクル技術を開発します。汚れがひどく再生が不可能とされてきたプラスチック廃棄物を分解し、3Dプリントや消費者向製品用の高品質な素材に生まれ変わらせる技術を生み出したのです。

ワンたちは、2023年までに毎年大量のプラスチック廃棄物をリサイクルし、4,600トンの二酸化炭素排出量を削減できるものと見込んでいるといいます。また、彼女たちの処理方法であれば、プラスチック処理の際に排出されるCO2も削減されるため、持続可能な「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」の構築へとつながる一歩と期待されています。
「規模を拡大し、多様化を図り、数多くの高機能再生製品を生み出すという、数十年がかりの戦略のスタートに立ったばかりです」とワンは話しています。
2022.06.21(火)
文=張替裕子(ジラフ)