女性の社会復帰をサポートするサラ・サイード

 一方、同じく2019年度ロレックス賞の準入賞者となったのが、パキスタンの女性医師サラ・サイードです。

 サイードは、電子情報通信医療(e ヘルス)ネットワークを利用して、在宅の女性医師と、十分な医療サービスを受けられない地域社会を結びつける低コストのサービス「Sehat Kahani」を設立し、最高経営責任者を務めています。

 現在パキスタンには17万人の医師がおり、その63%を女性が占めているにもかかわらず、家庭の事情や風習などにより、結婚後に仕事に復帰するのはわずか23%にとどまっているといいます。一方で、パキスタンの農村部に住む低所得層の2人に1人は、基本的な医療を受けられずにいるのです。

  パキスタンの状況について、サイードはこう述べています。「パキスタンでは、多くの女性医師が『ドクターブライド』、医師の資格を持つだけの花嫁として、家事育児に追われます。私たちはこうした女性医師を労働力に戻し、医療サービスが利用できない低所得で農村地域に住む患者と、デジタル技術を利用して結び付けています」

 サイード自身、最初の子供の出産後は、娘を置いて仕事に出かけられず、復職できなかった経験を持っています。その際に着想したのが、この「e クリニック」のネットワークなのです。

 サイードが構築した「e クリニック」のネットワークでは、在宅の女性医師が、低所得者や農村地域の患者に対し、オンラインで診察。患者の居住地域の看護師が立ち会い、患者を支援します。現在では、パキスタン全土で1,500人の女性医師、108人を超える看護師や女性医療従事者などを結び、26のeクリニックを運営。さらに最近では米国やニュージーランドに住むパキスタン人女性医師も参加し、パキスタンで24時間サービスを提供できるようになっているといいます。

 これまで基本的な医療を受けられなかった患者を、オンラインでオーストラリア、カナダ、またはパキスタンのどこかにいる医者とつなげられるようになる。「これは魔法のようなことです」と語るサイードは、2023年までに最大1,000万人に手頃な料金でヘルスケアを提供することを目標としています。

 ミランダ・ワンが解決を目指すプラスチック廃棄物問題。サラ・サイードが取り組む、女性の社会進出と医療格差の解消。いずれも、私たちにとっても他人事ではなく、むしろ非常に身近で深刻な課題です。そうした課題に挑み、「より良き世界を目指すためのプロジェクト」に立ち向かう人々こそ、まさにロレックス賞がフォーカスし、支援するパイオニアたちなのです。

 この5月、ロレックスは、2023年度ロレックス賞への応募受付を開始。世界の知識を広げ、地球上のクオリティ・オブ・ライフを向上させる画期的なプロジェクトをもつ18歳以上の人が応募でき、厳正な審査のもと、その中から5名にロレックス賞が授与されます。

 “Anyone can change everything.” そう掲げるロレックス賞を、どんな人物が受賞し、世界をより良きものに変えてくれるのか。その行方にこれからも世界中から注目が集まります。

2023年度ロレックス賞

応募受付期間 ~2022年10月17日(月)
詳細は応募サイト(https://www.rolex.org/ja/rolex-awards/application)よりご確認ください

●お問い合わせ
ロレックス

https://www.rolex.com/ja
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2022.06.21(火)
文=張替裕子(ジラフ)