「校正の技術とは、突き詰めていくと思い込みや先入観をいかに排するかというところに収斂するのではないでしょうか。」と牟田さんは書いている。
それは、普段の読書でも同じではないか。ページをめくると、自分の思い込みが崩される。そこが面白くもある。生きるのだってそうだ。生きれば生きるほど、自分の先入観に気がついて恥入ることになり、調べたいことが増えていく。正解はどこにもないのに、いつまでも調べ続け、それでもわからず、ミスをして、恥を晒して社会に出る。先入観を排する冒険こそが人生。私たちはみんな「校正者」なのかもしれない。
むたさとこ/1977年、東京都生まれ。図書館員を経て出版社の校閲部に勤務。2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。共著に『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』『本を贈る』。
やまざきナオコーラ/2004年「人のセックスを笑うな」で文藝賞を受賞しデビュー。17年『美しい距離』で島清恋愛文学賞を受賞。
2022.10.18(火)
文=山崎ナオコーラ