いろいろ考えて表現することで自分ができていく

――逆に、ものを作ったりせず、ただ生きているだけでは消化できないものがあった?

 そうですね、やっぱりなにか表現することって、それ自体が発見で。なにかわかっているから書いたり作ったりするのではなく、書いたり作ったりしながら、これってこういうことだったのかと、点と点を繋いだら線が見えるようにわかってくることがあって。私自身、表現をすることで自分が抱えていたカオスみたいなものに初めて気付いたし、それを見える形にして取り出してやると、そのぶんだけ自分が成仏するというか、ラクになれるんだなと、この20年でだんだんわかってきました。

――表現とまでは行かなくても、自分の中の漠然としたモヤモヤを言葉や形にして出すことでラクになれることは、誰しもありますよね。

 そうそう、ある人にとっては、それがダンスかも知れないし、お喋りすることかも知れないけれど、とにかく形にして出すことで筋道がついていって、ちょっと生きやすくなるみたいなね。どんな形であれ「自分の物語をつくる」ことは、自分の生きてきたことに納得していくこと。それをすることによって次のステップが踏みやすくなると思うんです。

――『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』というタイトルには、そんな三國さんの実感が込められていますね。

 ボーボワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」じゃないけど、いろいろ考えて、表現することで、ようやく自分の形ができていった感じがあるんです。なにかものを作るたびに、「これが私だ」みたいな気持ちは今でもあるんですけど、人って毎日代謝していくから、次の日になったらまた違うものを生み出せる自分になってる。そうやって次々に新しい自分ができていくことにワクワクするんです。

三國万里子(みくに・まりこ)

ニットデザイナー。1971年新潟県生まれ。3歳のときに祖母に編みものを教わったことをきっかけに、以後洋書から世界のニットの歴史とテクニックを学ぶ。「気仙沼ニッティング」及び「Miknits」デザイナー。著書に『編みものワードローブ』『うれしいセーター』『ミクニッツ 大物編・小物編』など多数。

編めば編むほどわたしはわたしになっていった


定価 1,650円(税込)
新潮社
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2022.10.07(金)
文=井口啓子
写真=佐藤 亘、平松市聖