東野さんと食事したとか、こういうお酒を飲んだというのは特に秘密にしているわけじゃないけど、そういうプライベートなものが作品に少しずつちりばめられて練り込まれているのを読むと、「これはあの時のあれを、東野先生は思い出しながら入れてくれたんだな」と思うわけです。これはもう、この上ない贅沢ですよね。「東野さんと僕だけのエピソードだ」と秘め事のようにときめきながら読めるんですから(笑)。
東野 「俺の好きなワインだ」とかね(笑)。
福山 本当に贅沢な時間です。恋愛に例えると、ふたりでこっそり行ったデートの話がちょっと書いてある感じですかね。「もう~、こんなところに書いちゃって。圭吾さんったら」みたいな。
東野 ははは(笑)。
福山 「恥ずかしいな。でもうれしいな」って。
東野が驚いた会議室でのワンシーン
東野 『聖女の救済』の小説では内海薫がiPodで福山雅治の曲を聞いたりしてますからね。
福山 あれも嬉しい驚きでした。小説は、キャストの顔だけではなくて、いろんな情景とか匂いとか触感とか――五感ですね。脚本は、映像にするために小説の詳細な表現を削ぎ落としながら行間を増幅させ、それを映像化するスタッフさん達と俳優達が可視化していくという作業。でも、小説はすべて文章のみで表現していかなきゃいけない。役者として、自分ならどう演じるかという読み方をまったくしないわけではないけど、それよりはまず、小説は小説として、一読者として楽しんでますね。
――小説の映像化となると、カットされるエピソードや脚色はつきものですが、今回の「沈黙のパレード」で「ここをこう変えたのか」と思った箇所はありましたか?
東野 序盤で、今回の事件の被疑者との因縁に気付いた草薙が、会議室で吐いてしまったのにはビックリしましたね。原作にそんな場面はないですから。でも、あれだけで伝わるんだなと。あの時の草薙の心理は小説では何ページも使って書いてるんですが、それがあのシーンひとつで伝わる。役者さんの演技も含めて、映像の力だと思います。
2022.10.04(火)
文=大矢博子