生きとし生けるもの、みんなそうやって代々命を繋いできたんだなと。それで全てのお母さんに「ありがとう」と感謝したいと思ったんです。もちろんお父さんにも。

 映画公開初日に『百花』の監督の川村元気さんがいらしてくれました。映画をご覧になって、認知症が進んでいく様を間近でみた私であれば、映画で描きたいものを理解して演じてくれると思ってくださったみたいで、出演のお話をいただきました。母の言葉がまわりまわって映画に出ることになるなんて。母のおかげで素敵な作品に出会えました。

 

私には「はい! 本番です!」と言ってみて(笑)

『百花』で私が演じる葛西百合子は女手ひとつで息子の泉(菅田将暉)を育てたシングルマザー。泉とはある過去の事件をきっかけに溝ができてしまいます。百合子が認知症を患い記憶を失っていくなか、泉は母との思い出を蘇らせ封印された記憶に手を伸ばしていく。そんななか、百合子は「半分の花火が見たい……」とつぶやくようになります。

 百合子は認知症を発症すると、スーパーマーケットで徘徊したり、失踪して小学校で発見されたり。川村さんの祖母が百合子のモデルなのですが、本当に小学校に行っちゃったことがあったそうです。なんで小学校なのかを考えてみると、川村さんの祖母にとってそこにかけがえのない思い出があったのかもしれない。そう、百合子にとって小学校は泉との思い出が詰まった場所でした。

 母を見ていても、鮮烈な思い出は心の奥底に記憶として残っていたように思います。認知症になっても記憶は残っている。ただ、記憶をアウトプットする回路のようなものが途切れているからなのか、うまく取り出せないだけ。「あの洋服が似合っていたよね」とか「あの場所が好きだったよね」とか、共通の思い出に触れると、記憶が蘇ってスラスラと話してくれました。

 娘によく言っているのですが、私が色んなことを忘れて困ったら「はい! 次、本番です!」と言ってみてほしい(笑)。私に染みついた言葉ですから一番効くはず。「カメラどこ?」と尋ねながら、シャキッとすると思います。

2022.10.05(水)
文=原田美枝子