2012年の旗揚げ以来、現代演劇をリードし続ける玉田企画。主宰の玉田真也は演劇のみならず、近年ではドラマの脚本や映画の監督も手掛け、活躍の場を広げている。

 その玉田企画の新作公演『영(ヨン)』が9月23日(金)~10月2日(日)、東京芸術劇場 シアターイーストで上演される。上演を間近に控えた玉田真也に話を聞いた。


自分の憧れと周囲の期待のギャップ、誰しもが抱える悩みだと思う

――メインビジュアルの長井短さんと祷キララさんをモチーフにしたイラスト(チェ・ジウク)が印象的な本作ですが、今回の作品のテーマについてお聞かせください。

 前回の新作公演の『サマー』の時に、今回の主人公である「韓国の恋愛ドラマが好きで好きで堪らなくて渡韓し脚本家を目指すも、ラブストーリーではなくバイオレンス描写に才能を発揮してしまう」という葛藤を抱えた女性脚本家というキャラクター像は既に思い浮かんでいたんです。

 ラブストーリーとバイオレンスという2つの両極端な属性が1人の中に共存しているというのは面白いなと。とはいえ『サマー』は群像劇。10人の中の1人にしてはそのキャラクターは存在がデカすぎる、とこの時は断念せざるを得なくて。そういうこともあって、新作では彼女を軸に作品を描こうと決めました。

――ビジュアルも鮮烈ですがタイトルの「영(ヨン)」も韓国語。わからない人には一見しては意味が取れないものになっています。

 実は僕、作品にタイトルを付けるのが苦手で。毎回どうしようってなるんですけど、これはすんなり決まりました。今回は脚本家が主人公なので、その人が実際に劇中で書いている作品のタイトルとか、それにまつわるものがちょうどいいかなとまずなって。主人公の書くバイオレンス作品の中で登場するヒロインが実際に現実世界に現れて亡霊のようにつきまとうという話でもあったので、最終的にヒロインの名前にしました。
 

――ヒロインの名前が「영(ヨン)」だったんですね。このヨンとはどういう意味なんですか?

「영(ヨン)」は韓国語で数字のゼロという意味や亡霊という意味合いがあるんです。ヒロインはフィクションの中から生まれる人間だから、なんとなく、虚構とか実態が無いというイメージでした。ゼロって韓国語だったらなんていうんだろうと調べたらヨンともう一つコンという言葉があって。ヨンが語感も良いし、亡霊という意味合いもぴったりだったので、ヨンにしました。

――ヒロインのヨンを生み出した「영(ヨン)」の主人公・マリカは自身の才能と憧れとの間に大きなギャップがあり、自分のやりたいことと周囲の求めることが違うことで苦悩する人間像となっています。玉田さん自身もマリカのようなジレンマを感じたことはあったんですか。

 それはありますね。過去に『あの日々の話』という舞台作品を映像化したんですけど、それがきっかけでたくさんの人から脚本のオファーをいただくことになって。でも、そういうオファーのほとんどが『あの日々の話』のようなワンシチュエーションとかギュっとしたシチュエーションでの会話劇、群像劇を書いてください、というものだったりして。

 でも、僕の中ではそれはもう既にやっていること。しかも納得のいく形で出来ているものだし、とか。僕としては会話のない脚本を書いてください、とか言われる方がテンション上がったりしますが、なかなかそうはいかないですよね。
 

2022.09.20(火)
文=CREA編集部
写真=山元茂樹