宮本さんは、音楽学をベースにした音楽社会学・文化社会学が専門だ。いわゆる「クラシック音楽」は高尚な芸術と称され、一方で「ポピュラー音楽」は商業主義的とみられることが多い。この2つのジャンルの違いを研究した結果、その断絶が起こってきたのは、19世紀頃。そこには人の声で音楽を奏でる「声楽」と、楽器演奏による「器楽」の美学的な対立などが潜んでいることがわかった。さらに、歌詞や台詞という「言葉」と「音楽」の対立軸も浮かび上がってきた。
これをふまえ、本書では「ミュージカルはポピュラー音楽文化である」との論を展開。宮本さんは、テレビなどの登場でステージから切り離されたポピュラー音楽を再び舞台に結びつけた結果、突然歌いだすことになったのでは、と指摘する。
「ミュージカルには、〈台詞の世界〉と〈歌の世界〉が複層的に存在しています。この2つの世界の段差、言いかえれば、劇中で突然歌い出したときの違和感をなくそう、あるいはなるべく自然なものにしようというのが、最近のミュージカルに顕著な傾向です」
その際、大きな役割を果たすのが、劇中に流れる歌詞のない音楽だ。映画音楽の世界では「アンダースコア(台詞を邪魔しないように映像を強調・補足する主にインストゥルメンタルの楽曲)」と呼ばれている。
「これに注目して鑑賞してみると、きっとこれまでとは違う味わい方ができると思いますよ」
みやもとなおみ/1969年、東京都生まれ。東京藝術大学音楽学部卒業、同大学院音楽研究科修士課程修了、東京大学人文社会系研究科社会学修士課程・同博士課程修了。博士(社会学)。立命館大学文学部教授。著書に、『宝塚ファンの社会学』『コンサートという文化装置』など。
2022.09.19(月)
文=「週刊文春」編集部