『淵に立つ』で世界三大映画祭のひとつ、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門審査員賞(第69回。2016年)に輝くなど、世界的に評価される映画監督・深田晃司。待望の最新作『LOVE LIFE』が、2022年9月9日(金)に劇場公開を迎える。

 本作は、ある悲劇を経験した1人の女性・妙子の変化を描く物語。夫・二郎(永山絢斗)やその両親との関係の変遷、そこに失踪していた元夫パク・シンジ(砂田アトム)との再会という“事件”を通して、妙子が選んだ行動とは――。

 ヴェネツィア国際映画祭、トロント国際映画祭と海外の由緒ある映画祭に次々と正式出品が決定している話題作。その主役を任されたのが、木村文乃だ。観る者の感情を飲み込むような繊細かつ大胆な演技を刻み付けた彼女は、本作を通してある「変化」を経験したという。

 表現を生業にする者、人気俳優につきものの苦悩を乗り越えて、「人間になれた」と述懐する木村のロングインタビュー。

人の気持ちって、ちょっとやそっとでわかるものではない

――韓国語手話はもちろん、相当深い内面の掘り下げが重要な役どころかと思います。撮影までの期間にどのような準備をされましたか?

 深田晃司監督が「役者さんに難しいことを考えさせる台本にはしたくないです」とおっしゃっていたのですが、まさにその通りで、台本を読んだら「どうしたいか」「どういう気持ちになるか」が全て書いてありました。

 そのため、余計なことは考えずに「監督がやりたいことが台本に詰まっているから、純粋に受け取って素直にやろう」という心構えだけしていました。

――観る側も憔悴していくような、心を削られる作品だと感じました。妙子の変化がキーになっていますが、今回は順撮り(台本の順番通りに撮影すること。転じて、時系列順に撮影することのニュアンスも)だったのでしょうか?

 いえ、順撮りではなかったです。最初に砂田アトムさんとのシーンをほとんど撮って、その後に永山絢斗さんが入ってくる家族のシーンを撮っているので、順番的には逆になります。

――それであそこまで入り込まれた演技を……。凄いです。

 逆に言うと、砂田さんが来てから妙子は明るくなっていくので、最初に明るい部分をやってからその後にどんどん殻に押し込められていく、鎧を着せられていくような状態になっていくのは、私としてはやりやすかったです。

 現場にいる以上、ずっと入り込んでいるのでエンジンを切ることはないと思いますが、今回に関しては特に答えのない悩みや葛藤が強くありました。

 「なんでこの人は私より先に悲しがるんだろう」とか、「どうして言ってもいない気持ちを決めてしまうんだろう」など、そういったところにセリフではなく言葉や気持ちとして咀嚼できずにいたことが、エンジンを切らずに入っていられた方法のように思います。

――妙子は周囲の人間に対するリアクションを表出させずに押し込めてしまう人物だからこそ、演じる際も鬱屈した感情が持続するわけですね。

 そうですね。私自身は割と言ってしまうというか、そこでディスカッションを始めようとしちゃうタイプなので「妙子はこういう気持ちになるんだ」を演じながら知っていったという感じです。

 人の気持ちって、瞬間的だったり、ちょっとやそっとでわかるものではない。撮影期間いっぱいをかけて、妙子という人物を理解していきました。

2022.09.09(金)
文=SYO
撮影=石川啓次
ヘアメイク=井村曜子
スタイリスト=申谷弘美