『LOVE LIFE』で伝わらない想いを伝える
――空間の中に木村さん=妙子がぽつんと佇むショットなど、ひとつの画の中で醸し出す雰囲気が印象的でした。妙子の感情が空間全体に伝播しているように感じられて。
その空間に身を置いた立場としても、本当に映画って総合芸術だなと思います。私が嘘をつかなくていいように、現場にある一つひとつを深田監督が微調整してくれるので、どんどん信じられますし、嘘がなくなっていく。環境的にはすごく快適でした。
少しでもやりにくそうにしていると深田監督はすぐ察知してくださるので、お芝居がやりやすいというか“生きやすい”環境にしてもらっていました。
――「嘘がない」「生きる」という感覚、とてもしっくりきます。観客として受け取る際も、現実感、真実味を感じながら観るといいますか。自分と重ねる部分もあるでしょうし、観るというより「立ち会う」ような感覚を抱きました。
“よくあること”が詰まっているんですよね。結婚して子どもがいない夫婦に悪気なく「子どもは(作らないの)?」と言っちゃったり、独身の妙齢女性に「結婚していないの?」と言ってしまったり。
そういうことって、自分の世界で体験していなかったり身近にそういう人がいないと、悪意なく口に出してしまう。だからこそ、この作品を観てほしいと思います。
私は、ここに出てくる登場人物の誰も否定されたくないんです。プレスシート(マスコミ用に配布されるパンフレット)にも書いてある通り、人の人生って否定していいものじゃない。相談されたときに意見を言うことはできるけど、「違う」「そんなのおかしい」って、その人自身が口にしない限り言っちゃいけない言葉だと思います。
もしそういう想いを受けたけれど言葉にできない人は『LOVE LIFE』のDVDをそっとテーブルに置いてほしいですね。深田さんの監督作品の中でも、言葉じゃ伝わらないことをとても分かりやすく描いていると思います。
伝わらない想いを伝えるという、本来の映像のあり方のような使い方をしていただくと、理解まではできなくても寄り添うきっかけになるんじゃないでしょうか。
――本作が相互理解の媒介になる、素敵な活用法ですね。
道徳に反することも出てきますが、ここでいう道徳は、ただの多数決でしかない。「それはふさわしくない」とか「法律に反している」は、映画を観るうえでは関係ないかなとも思います。
2022.09.09(金)
文=SYO
撮影=石川啓次
ヘアメイク=井村曜子
スタイリスト=申谷弘美