『LOVE LIFE』の前後は私にとっても本当に転機

――非常に面白いお話です。入り込んではいるけど、客観視もしている。

 はい。私は妙子を演じているけど、妙子は私じゃない。セリフを入れる前は客観的に観ていますが、セリフを入れ出すと妙子の目線で見るようになる。

 でも、じゃあ客観的に見ていた自分が妙子のことを考えるうえで上書きされるかというと、そういうこともなくて……、すごくややこしい説明をしていますね(笑)。

 そういったやり方をしているので、自分の中にあっち目線とこっち目線のようなものが両方存在しているんだと思います。

――観ている側からすると、例えばお葬式のシーンで壁に背中を何回もぶつけているシーンなど憑依演技がすさまじい! と圧倒されてしまったのですが、木村さんご自身の中ではそういった構造になっているのですね。

 あのシーンは、私はてっきり正面からおでこをぶつけるものだと思っていたんですが、深田監督に「不自然なのでやめましょう」と言われて、あの動きになりました。

 あのあたりから妙子の個性が出てくる瞬間がたくさんあるのですが、その個性がどうして目立つかというと、妙子が抑圧されているからなんですよね。自分の中に消化しきれない想いがあるのに、多数決を採ったら少数派だとわかっているから上手に外に出せなくて、無意識の行動に変わってしまう。

 私自身、いまでこそいい年になってきたから言えるようになりましたが、昔は言うことを聞くこと、正しくあることがすべてだと思っていたので、無意識に出てしまう深層心理の行動はすんなり受け入れられました。

――僕も木村さんと同い年で、いまのお話が非常にわかります。正しいだけじゃ回っていかないと思える/言えるようになってきたといいますか。

 『LOVE LIFE』の前後は私にとっても本当に転機というか、色々なことが変わったきっかけの作品です。

『LOVE LIFE』の前の作品くらいから徐々に「自分が本当はどういうことが好きなのか?」と向き合うことが多く、「好きなもの」の中にお芝居が入ってこなかったんです。

 それはなんでだろう? と考えたら、自分の中でお芝居は仕事でしかなかったということに気づきました。

 この先も「仕事だから」でいくのか、それともそこから何か違うものが見つかるのか、もがいている時期に、ちょうどこの作品のお話をいただきました。

 深田さんともお話しさせていただき、これは演技とかお芝居じゃなくて、妙子という1人の人間をちゃんと生きようと思えて、初めて仕事という意識とちょっと離れた向き合い方ができたように思います。 

 それまではやっぱり、目の前にあることをどうやってきちんと形にしていくかに囚われている部分が強かった。でも、もっと人間ぽいことをしたいと考えるようになりました。だからこそ怖くて、撮影中にモニターチェックはできなかったです。

2022.09.09(金)
文=SYO
撮影=石川啓次
ヘアメイク=井村曜子
スタイリスト=申谷弘美