――最後は奥様の一声で。
鈴ノ木 そう。「これは絶対やるべきだ。失敗したっていいじゃない」と言ってくれたんですよ。ただ漫画は、本当にしんどいんですよ。締め切りを守るのは大前提ですが、あとスタッフを使ったりとかも大変で……。今まで「ロックだぜ!」ってやってきた人間で(※編集部注:鈴ノ木さんは、漫画家になるまではミュージシャンだった)、人を使ったりも初めてでしたし。漫画にすべてを捧げないとできないんですよね。それくらいしんどかったので。やり始めたら楽しいのはわかっていたんですが、楽しいけどあそこかぁって思ったら、どんどん歯車が大きくなっちゃって。
「嫌だよなと思うけど、楽しい。ドMなのかな」
――今、鈴ノ木さんから「楽しい」って話がありましたが、泰さんは漫画を描くことに楽しさを感じますか?
泰 鈴ノ木先生のお話を聞いていて「あ、楽しいんだ」って思いました(笑)。あんな大変なお仕事なのに。
鈴ノ木 いやいや。でも大変ですよね。
泰 大変ですよね。黙々とやるだけで、楽しさも苦しさも考えてないです。楽しいと思ったことたぶんないと思う。
鈴ノ木 えー!
泰 だからさっき、鈴ノ木先生すごいと思いました。
鈴ノ木 たしかに。でも僕は楽しさ感じますね。嫌だよなと思うけど、楽しい。ドMなのかな(笑)。
泰 ふふふ(笑)。
鈴ノ木 まあ、ネームを考えなきゃいけないときは「またきたか、ここが」と思う。何よりネームを大事にしているので、いちばん時間がかかるんです。極端な話、絵はどうせ描くならうまく描きたいなくらいの感じで、楽しくやれますね。いや、でも嫌かな。いちばん楽しいのは、一本上がったときですかね。「あー。今週も乗り切った!」って。
――でも、次の週はすぐにきますよね。
鈴ノ木 そうですね。一瞬ですよ、楽しいのは。秒ですよね。一本上がると、ちょっと楽しい。楽しいというより「よかった」かな。
――単行本が書店に並んだりすると楽しくないですか。
2022.09.10(土)
文=岡部敬史