この地球上にはおびただしい数の人間がいて、人間としていちばん幸せなのは適職に出会うことだと思う。でも、適職に出会う人は数えるほどしかいない。ね? そういうもんじゃないかと思うのよ。

 私なんか、周りは楽しそうにやってるわりに、合ってないんじゃないかな、と思ってる(笑)。成功したように見える人にだって、忸怩たるものがあったりする。みんなそうなんじゃないかな。スポンサーの社長に会わせられるときだって、「いやー、みなさん、この時代に社長なんて引き受けてお気の毒に」って言うんですよ。私は社長なんて責任があるから、いやだもの(笑)。

 

誰にでも、ひとつはチャーミングなところがある

――たしかに……。そう言えば、大学に行った友達も、「あんまり楽しくないぞ」と言ってました。

 そういうもんなのよ。あなた、この中じゃいちばんハンサムだよ。それは親に徳があったんだな、きっと。だからハンサムな顔に生まれた。好き嫌いはあるだろうし、好きでその顔に生まれたわけじゃないだろうけど、そういう顔に生まれてない人からしたら、どれだけうらやましいか。その顔の良さを成熟させていくことに、命をかけたっていいじゃないか(笑)。

 人って、ひとつはチャーミングなものを持っているの。それにふたをして、みんな同じようにしている。でも、それを一切忘れたら、すごく生きやすくなるから。よく思われる必要なんてないんだよ。

 たとえば、俳優の小林亜星さんっているでしょ。ドラマ『寺内貫太郎一家』を始めたとき、演出家や私は、主役は小林亜星さんがいいと言ったのよ。亜星さんなんて太ってるぐらいしか取り柄のない人でしょ。

――いやいやいや(苦笑)。

 あの人、本業は作曲家で、何を言われてもワッハッハッと笑ってるの。太ってることがすごくいい味になってる。ああいうのが大事なんだな。

 今や女優もアナウンサーも、最近じゃスポーツ選手もみんな同じ顔だからね。同じような顔に同じような服を着て、それで若い女優さんは「役が来ない」とこぼすんだから、もうこっちは引く手あまたよ(笑)。

2022.08.23(火)
文=樹木希林、内田也哉子