我が家は質素な料理が多かったけど、名物料理で豪華だったのは、淡路恵子さんが教えてくれたスペアリブだね。いまだに一番の好物。あさちゃんにたまに焼いてもらうんです。

辻村 私の大失敗は、そのスペアリブ。石坂浩二さんたちが遊びにいらしたときに作ったら、味が濃すぎて、お嬢さんに「しょっぱい」と言われてしまってね。途方に暮れてたら、石坂さんが助けてくれたの。スープにして、ちょうどいい味にあつらえてくれたんです。

朝起きてから、家が荒らされていた

加藤 そういえば、あさちゃんしか家にいないとき、泥棒が入ったでしょう。

関口 そうそう。お嬢さんと私たちは、新潟へ公演に行ってた。

加藤 建て直す前の家で、賊は3階から入って、2階のお袋の部屋を狙った。あさちゃんが寝ている1階まで、物音は聞こえなかったんだね。

辻村 朝起きてから、家が荒らされてるのに気付いて。のんちゃんに、すぐ電話で報告したんです。

関口 お嬢さんに話したら真っ先に、「あさ子は大丈夫か?」と心配してくれた。

辻村 それを聞いて、ありがたくて泣けちゃった。「何を盗られた?」って訊くのが普通なのに。

関口 泥棒は慌てたみたいで、盗んだ物を裏の土手に落としてたね。

辻村 でも一番大切な、和也さんが誕生日にプレゼントした指輪がなくなってたのよ。

加藤 お袋が好きなチョウチョのついた指輪ね。数万円だったけど、1年くらいお小遣いを貯めて、お袋が馴染みにしてた宝石屋さんへ行って、安くしてもらった(笑)。

関口 あれだけは返して欲しいと、お嬢さんはずっと言ってた。

辻村 私がトロくさかったのよね。

加藤 もし泥棒に気がついて「ギャーッ!」とか叫んだら、かえって危なかったよ。

辻村 お嬢さんにも、「おまえ、起きて来なくてよかったよ」って言われたけど……。

(構成・石井謙一郎)

 加藤和也氏、関口範子氏、辻村あさ子氏による「美空ひばり邸の三婆」の全文は、「文藝春秋」9月号と「文藝春秋digital」に掲載されています。

2022.08.22(月)
文=加藤 和也,関口 範子,辻村 あさ子