あさちゃんは、僕が物心ついた2歳ぐらいのとき、ウチへ来たんだったね。新聞に「お手伝いさん募集」と出した広告を見て。
辻村 私もただの大ファンだったので、とにかくお嬢さんの傍にいられることが嬉しくてね。「ああッ! ひばりさんだッ!」ていう感じでした。ところが仕事を始めるや「料理は任せたから」と言われたので、ビックリ。ちゃんとした調理師さんがいて、横で洗い物をしたり野菜を切ったりすればいいと思っていた。
関口 前任の方が辞めてしまったからね。こちらに来るまで、料理は得意じゃなかったのよね。
辻村 あわてて料理本を読んだり、テレビの料理番組を観たり、四苦八苦しました。お鍋に残った汁を舐めてお好みの味を覚えたりもして、勉強しました。
加藤 ずいぶん頑張ったね。
石坂浩二さんにスペアリブを出して失敗
辻村 お嬢さんは、ごく普通の素朴な和食がお好きでしたね。芋の煮っ転がしとか、古漬けとか。お味噌汁の具はかんぴょう。それと干物を焼いたり、ちょこっとお惣菜を変えるだけ。
関口 好き嫌いもなかったわね。
辻村 これは食べられないっていうのはなかった。
加藤 うちの食卓は本当に質素で、イメージと違うみたいで、皆さんびっくりするよね。あと、お袋は、おでんが本当に好きだった。
辻村 お嬢さんは、おでんが3日続いても平気でした。
加藤 地方のステージが多いから家にほとんどいないけど、東京にいるときは一緒にご飯を食べる。学校から帰って来て「あっ、お袋いるな」と思うと、「また、おでん?」って。
辻村 お嬢さんから「きれいに食べたら、美味しかったってこと。ちょっと残してたら、イマイチってことだから」と言われてね。割り箸の袋に「美味しかったよ」って書いてあったのを見たときは嬉しかった。あの箸袋はいまでも大事に取ってありますよ。
加藤 お袋は料理を作らないから、僕にとって家庭の味といえば、あさちゃんの手料理でした。何を食べても美味しかった。
2022.08.22(月)
文=加藤 和也,関口 範子,辻村 あさ子