俳優業と監督業は全く別物

――是枝監督の『ベイビー・ブローカー』でいうと、『そして父になる』の取材の過程で赤ちゃんポストを知り、『万引き家族』と同時期に構想したそうです。膨大な取材の中で「本作ではこの部分を使う、残りは次作で」と分けてらっしゃるのかもしれませんね。

 なるほど。そうじゃないと、毎回ゼロからはきっと流石に厳しいですよね。

――創作衝動というところだと、オダギリさんが俳優業の中で得た刺激や触発と、監督業はまた別のゾーンにあるものなのでしょうか。

 そうですね。全く別物だと思います。監督業は全体を広く俯瞰で考えますが、俳優業はむしろ役の事だけを深堀りします。責任に関して言っても、俳優は自分の役の責任は取るけど、作品の良し悪しまで責任を負うことはできません。今回でいうと、坂本という役の責任はとるけど作品の責任はとりませんよ、みたいなものです(笑)。

 だからこそある意味ワガママに作品に向き合えるし、役に対しては誰よりも考えるからこそ、自分のアイデアやオリジナリティを注げるかの勝負かなとは思います。

――音楽活動はいかがですか? ゾーンとしては監督の方に近いかなとも思いますが。

 大きく分けるとそうなんですが、僕にとっての音楽はもっとビジネスと切り離した世界で、一番自由な世界かもしれません。誰にも理解されなくてもいいから好きなものしか作らない、みたいな。

 でも、今は時間的な余裕がないのもありますが、音楽は全然作っていません。自分がやれる事は終わったのかなぁ……とも感じています。音楽についての話は長くなるので、また別の機会に話しますが(笑)、監督作の『ある船頭の話』のとき、ティグラン・ハマシアンというジャズピアニストの方に音楽をお願いしてそう感じ始めたんですね。

 作曲というフィールドや音楽に全てをかけてやってきたプロのすごさを目の当たりにしましたし、カメラマンのクリストファー・ドイル、衣装デザインのワダエミさんという、その道の最高峰たちが集まってくれたことが僕を成長させてくれました。

 それまでの自分は、やりたいことを全部自分がやらないと気が済まないタイプでしたが、それを諦めさせてくれた。本当のプロの人たちとコラボレーションすることが作品のためになる、という考え方に変えてくれた出会いでした。

2022.08.10(水)
文=SYO
撮影=平松市聖
ヘアメイク=砂原由弥
スタイリスト=西村哲也