都会での便利な生活もいいけれど、日々規則正しいツールに囲まれた生活をしていると、時々ふと現実逃避したくなりませんか?

 朝は日の出とともに、森の匂いと鳥の声で目が覚める。今回はそんな、里山での農的な暮らしを体験できるミニトリップをご紹介します。


東京からおよそ2時間で辿り着く“自然の別天地”

 日本で唯一、村の名前に“温泉”がついている「野沢温泉村」。豊かな自然に包まれた“自然の別天地”は東京から新幹線とバスで2時間ほどの場所にありました。訪れたのは、森に溶け込むように佇む、「LIFE FARMING CAMP in NOZAWA-ONSEN」。

 見ているだけでワクワクしてしまうこのツリーハウス、元はプロスキーヤーの方が秘密基地として建てたものなんだとか。

 「ライフ ファーミング キャンプ」と呼ばれるこのキャンプ場では、灯りは全て太陽光、コンポストを利用した菜園で野菜を育て、天然水を汲んで料理をする、まさに自給自足の村の暮らしを体験することができる。

 早速ガイドさんとともに、水と山を巡るツアーへ。周囲を囲むのはブナの原生林、森に降った雨は、何層もの落ち葉をくぐり、50年の歳月をかけて濾過され湧き水となる。清らかな湧き水を口にすると、そのまろやかさと甘さに驚く。大地の恵みだ。

 そして何と言っても野沢温泉村の暮らしに欠かせないもの、それが「外湯」だ。温泉街には13カ所の外湯があり、どこからともなく白い湯煙が立ちのぼる。こんこんと湧く温泉は、古くから「湯仲間」と呼ばれる村人たちの制度によって守られてきた。

 外湯につかり、体の芯からじんわりと温まっていると、地域の人々との何気ない会話が生まれる。外湯は、日常の中でそっと野沢の文化に触れることができる場所だ。

 ライフ ファーミング キャンプでは自らテントを張り、今夜の寝床を整える。普段の生活とは切り離されたこの深い森の中に身を置き、流れる水の音に耳を澄ますと、なんて新鮮で贅沢な時間なのだろう、としみじみ感じる。

 キャンプの楽しみの1つはやはり、旬の食材を使ってみんなで作る食事。自家栽培で採れる野菜を中心とした地産地消のディナーは、どれも滋味深く優しい味わい。ちなみに私が訪れた6月のメニューは、温泉で茹でた根曲り茸のケークサレ、野沢菜炒め、天然酵母のバゲット、畑のイチゴのマリネ、軍鶏、そして根曲り茸の炊き込みごはん。その土地ならではの食事が嬉しい。

 素材そのままの味わいを心ゆくまで楽しむと、自然と顔がほころぶ。地酒やナチュールワインも豊富に用意されており、少し冷え込む夜は焚き火を囲んでゆっくりと嗜むことができる。

2022.07.24(日)
文・写真=磯村実穂