そんな彼らを、減刑と交換条件に女性が警察に売るシーンで映画はクライマックスを迎える。若い方のブローカーは女性に売られたことに気づいていながら、予定を変えずに逮捕されるのだ。
刑期を一刻も早く終えて赤ちゃんとの関係をやり直したい一心で女性は警察と取引した。若いブローカーは、彼女の内側に隠された赤ちゃんへの深い愛情に触れ、彼女の警察との取引が成立するよう、人身売買の罪で逮捕されることを選んだ。逃げようと思えば逃げられたのに、だ。彼女の赤ちゃんへの思いを叶えるために自分の身を投げ出すことで、彼自身も長く抱えていた傷を癒したのだ。
赤ちゃんポストは匿名で預け入れることができる。そのため、安易な子捨てを助長するという批判がある。だが、熊本の「ゆりかご」に預け入れた女性たちは、理由はさまざまだが、赤ちゃんに無事に育ってほしいと祈るような思いで託している。映画でも、女性は赤ちゃんが犯罪者の子どもという重荷を背負わずに済むように願って赤ちゃんポストに託していた。
「親子が一緒に暮らす」以外の可能性
ラストシーンは刑期を終えた女性がさまざまな人の助けを得ながら赤ちゃんとの再会を果たすことを予感させる。親子はすぐに一緒に暮らす訳でもなさそうだ。だが、実はその描写は現実に最も即している。
映画の外の現実に立ち返ると、日本ではこれまでに161人の赤ちゃんが「こうのとりのゆりかご」に預け入れられ、そのうちの8割については児童相談所の社会調査により親が判明し、赤ちゃんは親の居住地の児相に移管されている。児童虐待に関する国の方針「家族の再統合」(一時保護された子どもを再び親もとに返すこと)に沿うものだ。
赤ちゃんはその後、移管先の児相を経由して特別養子縁組、里親委託、親もとに返されるなどの措置が取られているが、一人一人の赤ちゃんが現在どのような状況にあるか、調査は行われていない。
終戦直後から数十年の間は児童養護施設の子どものほとんどが戦争孤児だったが、現在は親から虐待を受けた子どもがほとんどだ。そして、ここでも厚労省の主方針は親もとに子どもを返す「家族の再統合」だが、親もとに返されたあと、再びの虐待に傷つく子どもたちは少なくないという。
2022.07.25(月)
文=三宅 玲子