果たして私の書いた記事で伝えたいことはちゃんと伝わっただろうか。もっと書き込むべきことがあったのではないか。そんなもやもやとした思いを抱えていた夜に「ベイビー・ブローカー」を観た。観終わって改めて思った。私たちはもっと当事者を知らなくてはならない。

※以下は『ベイビー・ブローカー』のネタバレを含みますのでご注意ください

赤ちゃんをめぐる4者それぞれの“理由”

「ベイビー・ブローカー」の舞台は隣国、韓国だ。雨の夜、若い女性が釜山の赤ちゃんポストに赤ちゃんを預け入れるところから物語は始まる。

 赤ちゃんポストの運営者はストーリーにはほとんど関わらない。登場するのは、預け入れた女性と、闇取引で赤ちゃんの人身売買をしているブローカー二人組だ。女性は赤ちゃんを預け入れたものの、翻意して引き取りに赤ちゃんポストに戻ってくる。ところが、赤ちゃんはいなくなっており、ふとしたことからブローカーたちが赤ちゃんを売ろうとしていることを知る。

 映画で描かれていたのは、取材が最も困難な、赤ちゃんを赤ちゃんポストに預け入れなくてはならない女性の姿だった。

 

 ブローカーの話を聞いた女性はなぜか人身売買に同意し、3人は赤ちゃんを売る旅に出る。

 ところが、いざ赤ちゃんを手放そうというときになると、赤ちゃんと引き換えに金を得ることを目論んでいたはずの母親が、赤ちゃんの容姿にケチをつけて値踏みする養親に対し「うちの子の命に値段をつけるのか」と怒鳴り声をあげる。ブローカーたちは客と女性の間に挟まりオロオロしながらも女性の側についてしまう。

 赤ちゃんにとってよい養親でないとわかると敵意をむき出しに吠えまくる女性の姿に押されて、ブローカーたちは儲けを度外視して赤ちゃんの養親を探し始める。

 それぞれの理由は物語が進むにつれて明らかになる。売春で日々をしのいでいた女性は、ある理由により、自分が育てるよりも両親が揃っていて経済的に不自由のない家庭で育つことの方が赤ちゃんにとって幸せだと考えていた。

2022.07.25(月)
文=三宅 玲子