「雨は蕭々と降っている」(三好達治『大阿蘇』 4巻で引用)
これは昔、国語の教科書で読んで以来、ずっと心に残っていた詩です。作者が誰かも忘れていたんですが、最近調べてみたら、『乳母車』や『測量船』など、好きな詩はことごとく三好達治作のものだと気がついて衝撃を受けました。
そういえば詩には全く疎いんですが、漢詩がちょっと好きなんです。とりわけ杜甫の詩と人柄に惹かれます。高校の漢文古典の授業で学んだ、「江碧鳥逾白 山青花欲然」(江碧みどりにして 鳥逾(いよいよ)白く 山青くして 花然えんと欲す)ではじまる杜甫の五言絶句に、たったこれだけの文字で一瞬にして色鮮やかな情景が浮かんできて、授業中、ひとりで感動してました。天才とされる李白に対して杜甫は繊細で傷つきやすく色々とぐるぐる悩んでる。でもだからこその視点があって、見える地平がある。人として大事なことを知っている……なんだかそんなふうに思えて好きなんです。漢詩は『7SEEDS』に結構出しました。
最近では絵画エッセイで有名な作家の中野京子さんの文章が大好きです。名画の中の世界に誘ってくれる語り口が楽しくてたまりません。
マンガとの最初の出会いは幼稚園のとき。とある手術で1週間入院した時、父が病院の売店でコミック雑誌を買ってくれました。そこに赤塚不二夫先生の『もーれつア太郎』が載っていたことだけは覚えています。抜糸のとき、読んで気を紛らわせて涙をこらえてたんです(笑)。
文学だと感じたマンガ作品
小学校3年生あたりで『別冊少女コミック』にふれ、ノートにコマを割ってマンガを描きはじめました。『ロリィの青春』(『週刊少女コミック』)など上原きみ子先生の作品群が大好きで。華やかでドラマチックな展開にいつもワクワクしていました。その後萩尾望都先生の『ポーの一族』や『トーマの心臓』に心を鷲掴みにされます。この方だけは文学だと感じます。先生の作品を読めたことは幸せでした。そしてその後出会った三原順先生『はみだしっ子』はバイブルのような作品。セリフの力に心の奥底までえぐられました。今も折に触れ蘇ってきます。
2022.06.30(木)
文=「文藝春秋」編集部