背も高くない、不細工でもカッコいいわけでもない自分が見出した「武器」

――個人的な話で恐縮ですが……。僕も大学を卒業してから2年ほど芝居をやっていたのですが、まぁ生活がきつくて。

 そうなんですね。きついですよね……。楽しいのって千秋楽の打ち上げだけでしょ? あの「もう1回やろう」みたいな空気は何なんでしょうね(笑)。みんな気持ちよくなっちゃってる打ち上げマジック(笑)。

――チケットバック制(関係者が自らチケットを購入、売った枚数に応じて金額が支払われる。多くはノルマ制で、上限枚数を超えて初めて自身の利益となる)でしたし、基本赤字で。それで続けられなかったのですが、ムロさんは何年も貫き通されたわけですもんね。

 僕も20代のときは挫折していますよ。自分の貯金は全部なくなったし、何をやってもお客さんが自分と思っていたようには笑わなくて、つらかった。ただ、20代後半は自分で立ち上げるよりは役者仲間が立ち上げた劇団にプレーヤーとして参加している形(客演)でした。

 絶対的な演出家がいる劇団もあるけど、小劇場で芝居をしている団体の多くはみんなで提案しあって作り上げるもの。「muro式.」をやっていくなかでも勉強や経験になっていると思いますが、今思えばバイトしながら稽古に行って、稽古が終わってバイトして、何もなければ飲みに行ってお金を使って……。よく持ったなと思いますね。

――稽古に結構時間を取られるから、できるバイトも限られるんですよね。芝居の本番(公演日)は休まないといけないし。

 そうですね。バイトする生活から、本当に脱出したかった。26歳のときに野心を0から1に変えました。「売れたい、職業として成立させるまでは絶対やめない」と意地を決めて、「使ってください」という営業――カッコいい言い方をするとセルフプロデュースを始めました。

 自分で言うのもなんだけど、背が高くなければ不細工でもカッコいいわけでもなくよくわからない、平凡っちゃ平凡な何もない中でどうしようかと考え、自分がたどり着いた答えは「気持ち悪くなるくらいしつこくなる」でした。

 敢えて、相手にバレるように媚びるんです。「使ってください!」と言い続けると3回目くらいから笑ってくれて「ここまで言うなら1回使ってみようか」という“諦めの境地”に達する。「こいつ使ってみたいな」ではなく、「1回使わないと終わんないな」というところまで見出したんです、私は(笑)。

» 僕らができることは「前例を作るために格好つける」こと【後篇につづく】

ムロツヨシ(むろつよし)

1976年1月23日生まれ。神奈川県出身。1999年に活動開始。最近の出演作に舞台「muro式.がくげいかい」、ドラマ「ハコヅメ~たたかう! 交番女子~」、映画『新解釈・三國志』など。映画『川っぺりムコリッタ』が2022年9月16日(金)公開予定。

『神は見返りを求める』

2022年6月24日(金)全国ロードショー

ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、栁俊太郎

監督・脚本:𠮷田恵輔
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」
挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン) 音楽:佐藤望
配給:パルコ 宣伝:FINOR 制作プロダクション:ダブ
©2022「神は見返りを求める」製作委員会
■公式サイト:https://kami-mikaeri.com/
■Twitter:@MikaeriKami

2022.06.23(木)
文=SYO
撮影=鈴木七絵
ヘアメイク=池田真希
スタイリスト=森川雅代