蔵西 宴会のシーン、そうだった! あのシーンは、描くのに手間取りました。人数がとても多いので……。

 15世紀の写本絵画を参考にしたのですが、その絵でモンゴルの人たちが帽子をつけていたので、はじめは描いていたんです。

高木 皇帝の即位式の写本絵画ではたしかに帽子をつけていますね。

 でもこの物語だと、まだ前の支配者(メナムの土候・フーゼル)が生きているので、戦闘態勢のはず。戦時には、正式な即位式でかぶる優美な帽子はつけないかな、と。

 当時、イラン高原の征服した都市に任命されたモンゴルの代官の人々が、現地の人に殺されてしまった、という記録はわりとありますね。

 

主人公・ナンの初期の服装は今のイランではNG

蔵西 キャラクター造形にもご指摘をいただいて、直していきました。特にナンは、高木先生のイラン人のお友だちの感想も教えてもらって。

 最初は色気重視で(笑)、おへそとかも出していました。

高木 原作にもナンは髪や肌がみえる装いをしていたとあります。

 ですが、おへそを出すと、踊り子風の衣装という印象を受けやすく、オリエンタリズム的な描写とも解釈することができるので、避けたほうがいいと思って、少し現代的な観点でもご相談しました。

蔵西 ナンは、ペルシャの人じゃない、異国人だって設定です。そうだとしても、当時のイスラム社会では髪をこんなに出すのは異様かな?とも思ったんですけど、それだと読者の皆さんに愛してもらいづらいかなと思って、こんな形に。

 ボルトルがナンの髪を気に入っていて、いつも髪を出しているように望んだ、という裏設定もしてました。

高木 異様だから、原作にもあるように、町中でも目立っている、ということじゃないですかね。

 それに、妃候補の女性はあまり外を出歩かない。リアルに考えれば、だから、そもそもちょっと変わった子、という感じではありますよね(笑)。

 

蔵西 作中で、アッサムがナンに「ネストリアン」と語りかけるシーンがありますが、ナンの服装は、高木先生からいただいた近代のイラン、イラクのネストリウス派の女性の絵や写真なども参考にしていました。

2022.05.28(土)
文=文春コミック