高木 やっぱり、このモスクはイラン文化を象徴する建物ですからね。

 扉絵や表紙はイメージも大事なので、原作の世界観と矛盾しなければ、絵のモデルにする建物の時代は、多少外れてもよいと思います。

 建築様式は時間をかけて形作られていくものですし。でも、イラン高原東部からあまり外れない地域のものを参考に、というお話をしていました。

 

蔵西 1巻の表紙の背景で参考にしたのは、現存する中央アジア最古のイスラーム建築といわれるイスマーイール・サーマーニー廟というお墓なんです。墓の前に座ってる女みたいになってしまってるんだけど(笑)。

 この建物は、半分埋もれて畑になっていたために目立たなくて、モンゴル軍に壊されていなかったっていう話を資料で見ました。

高木 そう伝えられていますね。モンゴルが攻撃の際に破壊も行ったのは確かなんです。
 でもモンゴル軍が実際にどれくらいの建物を壊したのかは、学術的に実地調査しないとわからない部分もあります。

 ただ「モンゴルが破壊した」という話が現在まで言い伝えられていることから、当時の中央アジアやイランの人々にとってかなりの脅威だったということですね。

時代や場所をまたいでくみ合わせた絵づくり

蔵西 モンゴルの兵の鎧は、いろんな時代や場所の資料をモザイク的に混ぜてつくっていったんです。頑強で荒々しいモンゴル兵のイメージをつくりたくて。高木先生にいただいた資料と、自分で集めた資料や写本絵画をつきあわせて想像して。

 それぞれみんな、違う格好にしました。チベットのモンゴル系の鎧の資料で見た金属パーツがついているデザインなどもベースにしています。

 桝屋友子先生の『イスラームの写本絵画』などはわりと参考にしていたかな。

高木 あまりものが残っていないからたいへんですけど、でも逆に想像の範囲もあって遊びを入れられる部分はありますよね。漫画なので、イメージは重視しつつ。

 あ、でも、宴会のシーンでモンゴル兵たちが帽子をつけていたのですけど、それははずしていただきました。

2022.05.28(土)
文=文春コミック