「“映画の嘘”はつきたくない」胸裡とは

 広瀬すずの俳優道を辿っていく中で、外せない一作『怒り』。2016年に公開されたこの映画で、広瀬は“痛み”を全身にまとったキャラクターを生々しくも力強く演じきった。そこから約6年――。同作の李相日監督と再び共闘した映画『流浪の月』が、2022年5月13日(金)に劇場公開される。

 凪良ゆうの同名小説を映画化した本作は、運命に引き寄せられるように出会った女子小学生と男子大学生を描く物語。誘拐事件の加害者と被害者として引き離されたふたりは、15年後に再会する。真実に目を向けることなく、鋳型にはめようとする他者と世間の濁流に飲み込まれた更紗(広瀬すず)と文(松坂桃李)の運命は――。

  CREA WEBでは、広瀬すずと松坂桃李のインタビューを連続掲載。

 広瀬は自身の芯から役とシンクロする“同化型”といえるだろう。彼女の一挙手一投足から更紗の感情がこぼれ出し、スクリーンから染み出してくる。「演じる」を超えた領域に達するため、広瀬はどのような道を辿ったのか――。彼女のずば抜けた感受性を形作る「嘘をつかない/つけない」をキーワードに、その肖像に迫る。

「今すごく感じられたな、見えたな」

――『流浪の月』には、観る人の価値観や倫理観に委ねる、答えを限定しない深さがあるかと思います。その人それぞれにおいての答え、或いは正解というものがあるといいますか。広瀬さんはお芝居における「答え」について、どんなお考えをお持ちですか?

 役者同士がちゃんと通じ合ったり、お互いに触れあって温度を感じない限りは何も生まれないと思います。だからこそ、自分たちでやっていく中で「これだ!」というものが直感でわかるタイプではありますね。

 言葉にすると難しいのですが、役として「今すごく感じられたな、見えたな」と自然と感情が生まれてきたり、「これがこのシーン自体の正解だろうな」が見えてくる。そこに辿り着くために「もうちょっと違う形を」とチャレンジすることにも意味があると思いますし、自分の中で「これ以上は出せない」となるときもあります。やり方の幅が広いからこそ、余計に“答え”を見つけたときは「これだ!」とはっきりわかる気がします。

 もちろん自分が思う感覚が必ずしも正解とは限らないのですが、お芝居をやっていると不意に観る人にも伝わるくらい「光が見えた」と感じる瞬間に出合うんです。だから何にでも当てはまる「お芝居の答え」というものはなくて、やっていく中で都度都度「これが答えだろうな」と思うものが見つかる、という感覚でしょうか。『流浪の月』の現場は、私たちが抱いた感情が李さんに全部伝わっていたら大体OKが出ました。

2022.04.29(金)
文=SYO
撮影=平松市聖
ヘアメイク=奥平正芳
スタイリスト=丸山晃