第104話では『オードリー』の最終回が引用され、「オードリーのヒロイン美月は、連続テレビ小説には珍しく、結婚も出産もしないまま最終回を迎えました。美月と共通点の多いひなたは、これからどうやって生きていくべきか、漠然と考えていました」というナレーションが挿入される。
『カムカム』はなぜ何度も朝ドラを引用するのか?
朝ドラを引用する朝ドラ、と『カムカムエヴリバディ』はよく表現される。だが、ラジオ英会話を主題にした「百年の物語」がこれほど何度も過去の朝ドラを引用するのは、もうひとつの理由があるのではないかと思う。
物語に併走し続ける2つのモチーフ、「ラジオ英会話」と「連続テレビ小説」にはいくつかの共通点がある。基本的には平日毎日、15分ずつ放送されるNHKのコンテンツであること(ラジオ英会話は90年代に20分に拡大されているが)。そしてもう一つは、それを必要とする人々が、決してエリートではない市井の人々であることだ。
安子、るい、ひなた、という3世代のヒロインは、いずれも若き日に大学に進学していない。女が大学へ行くなど夢物語だった時代の安子、母のいない実家を飛び出すように働き始めたるい。そして将来に迷いながら就職したひなたは、いずれも学校教育ではなく、ラジオで英語を学びはじめる。
ある意味それは必然で、塾や家庭教師、あるいは大学の英文科と言った優れた教育環境に恵まれた人々は、毎日15分のラジオで英会話を学ぶ必要などないからだ。
自分を語る言葉として英語を発見する安子、そしてその安子に「I Hate You」を突きつけるるいを見ても、物語の中で英語が単なる外国語ではなく、自己表現の獲得を隠喩していることがわかる。そして何度となく繰り返し引用される過去の連続テレビ小説もまた、「自分の物語を語る言葉」として『カムカム』の中で描かれているのだ。
2022.04.13(水)
文=CDB