都会的な中心町と、手つかずの自然が同居する島

 らっきょうのような形をした沖永良部島は、一周ドライブして約1時間30分。和泊町と知名町の2つの町があり、人口約1万2000人が暮らしています。

 訪れる前は、何もない素朴な離島だろうと想像していました。

 けれど、町の中心には大型のスーパーマーケットやドラッグストアもあれば、24時間営業ではないけれど地元コンビニもあり、なかなかの都会。マクドナルドなどのファストフード店はないけれど、かなり快適に暮らせそうです。

 とはいえ、中心地から一歩出ると、一面のサトウキビ畑や、最高峰の大山でさえ標高240メートルゆえ、広い空が広がっています。そこはやはり、のどかな南の島です。

 そんな沖永良部島は、かつて薩摩藩の統治時代は流刑の地でした。

 西郷隆盛も島津久光に遠島刑を命じられ、1年6カ月あまり、ここで過酷な日々を過ごしました。極限状態の中で、天意を悟った西郷は、のちに幕末の日本の震央へ、向かっていくのです。

 西郷隆盛のターニングポイントであった沖永良部島は、大河ドラマ『西郷どん』の中で、ロケ地として、島のあちこちが登場しています。

 そのひとつが、島の西部のビーチ「シビキニャ」。

 けれど海水浴場ではないので、行き方がなかなかわかりづらい。教えてくれた人の説明も「周回道路より海側の道を西に走って、“住吉港”の小さな看板を過ぎたら、四角い小屋があるから、そこを左」。

 これじゃあ、わからない。行き方はおきのえらぶ島観光協会に聞くのが得策。

 どうにかたどり着いたビーチは、手つかずの野趣あふれる雰囲気でした。

 ガジュマルの巨木が枝を広げるジャングルを抜けると、琉球石灰岩に囲まれた小さな入り江に出ます。岩のフォーメーションが変化に富み、中央には“夫婦岩”と呼ばれる2つの巨岩、アーチ状の洞穴のあいた崖もあります。

 西側を向いたビーチなので、夕日が水平線に沈みます。背後の空を見上げると、澄んだ光の月。おそらく西郷隆盛が座右の銘の「敬天愛人」(天をうやまい、人を愛すること)を、心に刻んだ日々と変わらぬ美しさでしょう。

2022.04.09(土)
文・撮影=古関千恵子