体験していなくても誤作動を起こさないノスタルジー
――ご自身が生まれる前の祖父母・親世代を描いた近過去の作品と、がっつり時代劇というのは演じるうえで違いがあるものなのでしょうか。
そうですね。どちらも生まれる前ではありますが、日本人の伝統的な感覚というか、ノスタルジックさはどこかに植え付けられているじゃないですか。
自分が生まれる前から存在していた、昔からなじみのあるものの中に入っていくとき――たとえば昭和の街並みが作られたセットを観たときに、たとえ体験はしていなくても誤作動を起こすようなことはなく、自然と「懐かしい」と感じるんですよね。逆に時代劇だと「あ、観たことある」という感覚とは違うので、そこにどう合わせていくかになります。
――大島さんは非常に『とんび』の時代の空気感に溶け込んでいて、どうやってそれを成しえたのかが気になっていました。
瀬々監督に「家族の一員みたいなものだから」と言われた瞬間から、アキラが自分の息子のように完全にスイッチが入りました。ただそれだけを核として撮影に参加している感覚でしたね。北村匠海くんは私の年齢からすると産めないのですが(笑)、なんだか産めたような気がしてきたというか、母のような感覚でもあり親戚のおばちゃんのようでもある感覚で、撮影時は一緒にいました。
――夫婦役を演じた安田顕さんとは、何かディスカッション等をされたのでしょうか。
いえ、自然と出来上がっていきました。ご一緒したのは初ですが、ずっと共演してみたかった俳優さんだったので初めての感覚がないんですよね。でも安田さんってそう言われがちなんじゃないかな。前から一緒にいるような感覚にさせられるので、「こういう夫婦にしよう」と話さなくてもすっと入り込めました。安田さんが笑えば私も笑うし、一緒になって騒ぐお祭り夫婦です(笑)。
――安田さん演じる夫の照雲を見守る大島さんのまなざしも、印象的でした。
この夫婦は子どもができなかったぶん、夫婦の絆がすごく強いはずなんですよね。そういった部分を体現するというか、随所で見えたらいいなとは思っていました。ただ、意図的にやったというよりも、自然とそうなっていった感覚が強いです。
――では、今回はとりわけ苦労があったということはなかったのでしょうか。
そうですね。それは本当に作品の力だと思います。疑問に思うことも不自然に感じることも何もなく、すっと心に染み入りましたし、とにかく楽しかったです。
撮影をしていて思ったのは、ワンシーンワンシーン阿部寛さんから目が離せない! 本当に何をするかわからないので(笑)、集中力も必要ですし、すごく刺激的で楽しかったです。ちゃんと台本に沿ってやっているのに、アドリブ!? って思ってしまうほど常に新鮮。「こんな表現の仕方をするんだ」って毎回驚かされますし、自分にはない感覚や価値観を持っていらっしゃるんだと思います。ヤスさん自身もそういう人だから、阿部さんとは何回も共演しているはずなのに「ヤスさんにしか見えない……」となりました。
思い起こせば、以前共演させていただいた『疾風ロンド』のときも毎回驚かされていたなって。だから、またやられている感覚ではありますね(笑)。
2022.04.06(水)
文=SYO
撮影=深野未季