ベストセラー『13歳からのアート思考』の著者で、美術教師の末永幸歩さんに、国立新美術館で開催中の「ダミアン・ハースト 桜」展を案内してもらい、誰でもすぐ実践できる、新しいアートの楽しみ方を教えてもらいました。
アートをどう見ればよいのかわからない?
先日、CREAの編集者さんからこんなメールをいただきました。
「日本初の大規模な展覧会、また日本人になじみ深い桜がテーマとのことで、ミーハー心でとっさに『見たい!』と思ったのですが、楽しみ方を持ち合わせていないことに気づきました」
また、展覧会場では、こんな話し声を耳にしました。
「お花見気分を味わえるね」
一見肯定的な言葉のようですが、よく考えてみるとそこには「お花見気分を味わえるこの展覧会は、実際のお花見に次いで良い」というニュアンスがあるように感じます。
日本は世界でもトップレベルの観客動員数を誇る、展覧会大国といわれます。
映画を観たり、ショッピングをしたり、ランチをしたりするような感覚で、休日の楽しみの1つとして展覧会に足を運ぶ人は多いようです。
しかし、今この記事を読んでいる読者のなかにも「正直、展覧会を楽しめているのかよくわからない」という人は、少なくないのではないでしょうか?
少しでも思い当たる方がいたら、それは決して「アートを楽しむ感性がないから」ではなく、「アートの楽しみ方」を学んでこなかったからだと思います。
アート鑑賞のカギとは?
かくいう私も、以前は同じような悩みを持っていました。
美しく描かれた古典的な作品ならまだしも、現代のアートとなると、何一つ感じるものがないまま展覧会を後にした経験も少なくありません。
そんな私のアートに対する見方が変わった1つのきっかけは、推理作家の森村誠一さんが書いたある記事を読んだことでした。
そこには「たとえそれが否定的な意見であっても」という文脈で、「作者の意図を超えて作品が一人歩きすることが作者の喜びである」というようなことが書かれていたんです。
これを読んだときは驚いてしまいました。
普段私は、自分が意図したことが正確に伝わらなかったらがっかりしますし、すぐに訂正しようとします。
まさか、人と会話をしたり仕事をしたりするときに「意図と異なって嬉しい!」と感じたことはありません。
しかしその後、アートに関する様々な文献を読むなかで、徐々にわかってきたことがあります。
それは、森村さんが変わり者なのではなく、とくに近代以降の様々な分野のアーティストたちが、それに近い考え方を持っているということでした。
じつはこれこそがアートをみるときのカギです。
端的にいえば、アートの楽しみ方とは、作者が意図したことを超えて、鑑賞者が作品から十人十色の答えをつくっていくことです。
「自分の答え」をつくるアート鑑賞法
それでは、実際にどのように作品から「自分なりの答え」をつくっていけばいいのでしょうか?
それには、作品を見ながら気がついたことや感じたことを書き出していく「アウトプット鑑賞」がオススメです。
ここからは私がこの展示を実際に鑑賞してアウトプットしたことをご紹介しつつ、アートの楽しみ方をお伝えします。
なお、先入観にとらわれずに見るために、アウトプット鑑賞の前には、作品の解説などは読まないでおきましょう。
2022.03.15(火)
文=末永幸歩
撮影=深野未季