木も樹木も豊かな東北で暮らし、物作りに携わる作り手たち。
伝統を受け継ぐスタイルで技術を磨き、独自のカラーを加える人もいれば、東北の自然や気候風土、暮らしに憧れて移り住み、この土地にしかない材料で、個性的な物作りに取り組む人もいる。
各々の縁で東北の地に根をおろし、朗らかに黙々と暮らしの道具を作る彼らの作品はいずれも個性的で多様性に富み、エッジの効いた物ばかりだ。
2022年、最も注目すべき東北の作り手5名をご紹介。
目指すは新スタンダードの構築と、専門書の作成
◆牧野広大(まきの・こうだい)
[山形・くらしの金具・里山]
東北芸術工科大学はユニークな卒業生を輩出しているが、牧野さんはその一人。
大学では、金工を専攻。銅や鉄の錆の研究をしていたが、ふと、アルミという19世期に発見された新しい素材を研究対象に変えてみた。
今では染織で草木染というのは一般的だが、この言葉を作った方のお孫さんが大学で教えていたことも、研究するきっかけとなった。
だが、繊維の染めとアルミの染めは全く別物。2年は試作とデータ取りに明け暮れ、自分なりのレシピを模索。壁にぶつかりながら、“アルミの草木染め”の分野を切り開いた。
「造形派ではないから、別のことをしないと生き残れないという思いがあった」と言うが、それだけでは済まない紆余曲折があったようだ。
「いつか、アルミの草木染めの専門書を作りたい」と言う牧野さんは、「黄色が玉ねぎだということだけはオープンにしていますけど、他の染め方は、いつか専門書を書き上げるまでは内緒です」と笑う。
愛知県で生まれ育ち、雪国に憧れ、山形に来た。しばらく廃校になった学校の給食室を工房にしていたが、そろそろ独立工房を、と探していたところ、お蚕さんを飼っていた家を借りられることになる。4年かけて改装し、2020年11月に工房兼ショールームをオープンさせた。
軽いアルミは「紙と木の文化圏に向いているのでは?」と言う牧野さん。「日本の暮らしのスタンダードの一つになってくれたら嬉しい」と、今後は人も入れて、この世界を広げることを目指している。
くらしの金具・里山ショールーム
所在地 山形県西村山郡朝日町立木 229
https://lisenweb.jimdofree.com/
※要予約。
※牧野さんの作品の取扱店はホームページにて案内。展示会情報は下記ウェブサイトにて告知。
https://koudai27.jimdofree.com/
牧野広大(まきの・こうだい)
1986年愛知県豊橋市生まれ。2004年東北芸術工科大学入学。2010年同大学院修了。 2010年~2020年山形県朝日町の旧立木小校を拠点に活動。2017年くらしの金具・里山設立。
Text=Akiko Hino
Photographs=Wataru Sato