技法に名前はないが観たままに感じてほしい

◆安齊賢太(あんざい・けんた)
[福島・陶芸家]

 日本の工芸のなかで、一番、作り手の人数が多いのはおそらく陶芸だろう。歴史が長い分、様々な技法がある。

 だが安齊賢太さんは「その人からしか沸き出てこないものだけで作り出したい」と、「名前のない技法」で、圧倒的な存在感の黒い器を作り上げている。

 大学では経済学を学び、楽を選んだつもりで就職するもサラリーマン生活は厳しかった。「どうせならやりたいことを」と退社。陶芸の基礎を学ぶべく、京都の専門学校に入学する。

 京都の陶芸は分業制ゆえ、きっちりとした仕事をしないと次の人に回せない。ここで学んだ技術は、今でも武器だ。

 卒業後、色々な焼き物を観たいと英国に飛ぶ。ほかにはない表現をする作家の工房に飛び込み、10カ月手伝わせてもらった。

 1年後に帰国したのち、陶芸家の黒田泰蔵氏の元へ向かい、工房の手伝いをさせてもらうことに。「2年ほどでしたが、黒田さんの空気を吸収できたのは大きかった」と、振り返る。

 2010年に独立後、震災が起こる。誰もが立ち止まったとき、頭をリセットした。作品自体に“圧力”がないと生き残れないと、思い出したのが美術展で観た瀝青(天然コールタール)を使った作品だった。泥団子にも似た質感を出すため、取り入れたのが漆。

 あれから10年。「素地に漆を塗って仕上げると陶胎漆器と勘違いされますが、この技法に名前はないです」。自らが導き出した唯一無二の質感の作品は、世界に羽ばたいていく。

安齊さんの作品は「Jikonka TOKYO」などで購入可能

●東京「Jikonka TOKYO」
http://www.jikonka.com/

安齊賢太(あんざい・けんた)

1980年福島県郡山市生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て、京都伝統工芸専門学校で学ぶ。2006年同校卒業。イギリス、伊豆にて遊学。2010年福島県郡山市で独立。

Text=Akiko Hino
Photographs=Wataru Sato