アウトプット鑑賞をしたあとは、作品背景も
じつは、ダミアン・ハーストのこれまでの作風は、本作とは似ても似つきません。
彼の代表作は、機械的に描かれたカラフルなドットが並ぶ「スポット・ペインティング」というシリーズや、牛やサメの死体を大きなガラスケースのホルマリン溶液で保存した作品など、「手仕事の痕跡」や、「作者の感情表現」などからは対極にある作風です。
本展の会場内には、ダミアン・ハースト自身が、これまでの活動や、本作について語ったドキュメンタリーフィルムを視聴できるコーナーがありました。
先鋭的な作風で評価され「世界で最も稼ぐアーティスト」とも称されるダミアン・ハーストが、じつは今も尚、純粋な「絵画」に対して憧れていること、また、「天才性」や「創造性」に渇望していることを、私はその動画から感じ取りました。
もしかしたら、ダミアン・ハーストは、これまで「表現」に向き合い続けるなかで、美術史に名を刻む過去の天才たちが持っていたような創造性を、自分のなかに納得のいくほど見いだせずに葛藤してきたのではないか。
その虚無感を、多くの言葉や、様々な美術の知識で、なんとか補完しようとしているように私には感じられました。
動画を視聴したあと、もう一度展示室に戻り、作品を見ました。
すると、絵の中の無数の点々が、ダミアン・ハーストの「言葉」や「知識」であるように思えてきました。
もし、これらの点々を剥がし取ったら、本当になにもなくなってしまうのか?
それとも、ダミアン・ハースト自身が「ない」と思い込んでるだけで、本当は点々の下に彼らしい「なにか」があるのではないか……。
アウトプット鑑賞をしたあとに、作品の背景を知ったことで、新たな角度から作品を捉え直すことができたような気がしました。
新しい自分との出会い
いかがだったでしょうか?
アート鑑賞の「楽しさ」は、映画を観たり、ショッピングをしたり、ランチをしたりするときに、即時に感じるような楽しさとは少し違っています。
しかし、十人十色の「自分の答え」をつくるアート鑑賞をすることで、美術館を出たあと、心の中に新しい考え方が芽生えていたり、それによって日常の見え方がほんの少し変わるような、そんなじんわりとした楽しさを感じられるのではないでしょうか。
ダミアン・ハースト 桜
会期 開催中~2022年5月23日(月)
会場 国立新美術館 企画展示室2E(東京・六本木)
開館時間 10:00~18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日 毎週火曜日 ※ただし5月3日(火・祝)は開館
観覧料 一般 1,500円、大学生 1,200円、高校生 600円
問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.nact.jp/exhibition_special/2022/damienhirst/
2022.03.15(火)
文=末永幸歩
撮影=深野未季