そしてお弁当をつくり始める
遠山:それから次々と新しいことに挑戦なさった。
桑村:ええ。20年ほど前のお話ですが、和久傳のお客様から、「高級なお弁当をつくってください」というご要望がたくさんありました。でも、お弁当は料亭の料理とは仕込みも内容も違う。そのため「それはできません」と申し上げていたんですが、もしかしたら京都にはこういう要望がたくさんあるのではないかと思ったんです。当時は普通の駅弁や、3日前から注文しておくようなお弁当しかなかったので。それでお弁当の専門店を始めました。
遠山:なかでも「陶筥」というお弁当は素晴らしいですね。しかもこの器は、陶器屋さんではなくタイル屋さんがつくられたと聞きました。
桑村:ええ、そうなんです。みなさんのお弁当の容器もたいへん素晴らしいんですが、私はお弁当の容器を考えるとき、再利用できたり、捨てるにしても自然にかえるものにしたいと思いました。そこで陶器の容器で、あの有名な「峠の釜めし」の京都版をつくろうと思ったんです。それには、安くて軽い陶器が必要でした。いろんな陶器屋さんをまわったんですが、なかなか実現できなかったところ、そのアイデアをあるタイル屋さんがとても面白がってくださって、この「陶筥」の陶器の容器をつくることができました。
遠山:この器はとても軽いんですよ。
桑村:「峠の釜めし」は中身も含めて1キロですから、それ以内の重さになるようにつくり、蓋には陶器ではなく和紙を使用しています。これなら、あとで湯豆腐の鍋にもできるし、植木鉢にしてくださっている方もいらっしゃいます。和久傳ではこの容器に和紙のシェードをつけて「陶筥スタンド」というのもつくりました。でもスタンドをつくったら、「和久傳」のことを「和久電」という電器屋さんだと思われた方もいらっしゃいましたよ(笑)。
2013.08.20(火)
text:Rika kuwahara
photographs:MIki Fukano / Nanae Suzuki