「近づいたら火傷する」人
桑村:何にも知らないというのは、かえって強いんです。男の方や賢い方はきちっと計算されて動くと思いますが、私は「ダメでもともと」という考え方。やってみてアカンかったら、また次に行けばいいんです。言葉は少し汚いんですけれど、「お尻に火が付く」という言葉はご存じですか?
遠山:どういう状況かな? お尻に火をつけられたことないから……(笑)。
桑村:まあ、遠山さんはお金もちでお坊ちゃんですからね(笑)。「切羽詰まる」ということです。和久傳はこのままでは毎年赤字になってしまう、という状態でした。そうやって切羽詰まったとき、ここと決めたら、「そんなの無理やろう」と頭で考える前に走るんです。
遠山:そういうとき、周りの方々は?
桑村:それはたいへんですよ。私のアイデアを実現してくれるのは、周りの人たちですから。私の娘は私のことを、「お母さんは太陽のような人や」と言ってくれますが、その意味は、「近づいたら火傷する」ということなんです。
遠山:それだけアツいということですね。私は最近、社員に「遠慮しすぎです。もっと言ってください」と言われます。だから、はっきり発言される桑村さんは素晴らしいと思います。それで、料亭「和久傳」はどのようにスタートしたんですか?
桑村:老舗の旅館だった数寄屋づくりのお屋敷を、ご縁があって買い取ることができて、改装して、当時としては大胆な試みでしたが、囲炉裏をつくりました。繊細さだけではなく、ほかの京都の料亭にはない、「野趣」を取り入れたコンセプトです。そしてメニューにも野趣をと、当時は蟹料理といえば蟹すきが主流でしたが、初めて蟹を焼いてお出ししたんです。この「蟹焼き」が雑誌で紹介されて、遠くから食通の方々が食べにきてくださるようになりました。
2013.08.20(火)
text:Rika kuwahara
photographs:MIki Fukano / Nanae Suzuki