まるでミステリー! 丁々発止のやり取りを堪能して

 さて問題の助右衛門の真意ですが、それが明らかになるのはお喜世が同席する中で綱豊と対面する場面でのこととなります。

 綱豊は浜遊びの見物をしたいという助右衛門の真意を聞き出そうと、鎌をかけたり怒らせるようなことを言ったりするのですが、助右衛門ははぐらかします。

 丁々発止のやりとりはこの作品の大きな見どころで「観客には先に明かされている犯人を登場人物が推理していくミステリーのような面白さがあります」と、莟玉さん。莟玉さんがこの作品に初めて出演したのは10歳の時で、その当時でも「わからないけどわかった」と語ります。

 「言葉として変ですが(笑)、それが正直な印象です。見た目や音楽が派手で楽しい作品と違ってせりふ劇ですから、何を言っているのかはよくわかりませんでした。

 理屈としては理解できませんでしたが、それぞれの思いのようなものは伝わってきました。会話の中で鼠とか桶が出てくる例え話をするんですが、そこが子供心にすごく面白かったのを覚えています」

 言葉そのものだけでなくそれを発する綱豊と助右衛門の一挙手一投足にさまざまな思いが表出し、幼い莟玉さんの胸に響いたということなのでしょう。それもこの物語に描かれた役の人物の思いが演じている俳優さんにしっかりと宿っていたからこそ、です。

 「お喜世はふたりの会話からだんだん状況を理解していくのですが、最終的に思いきった行動に出ます。

 そこに至るまでのお喜世の気持ちをしっかりとつくっていかないとできないのですが、台本にお喜世の思いについての記述はなく、ふたりのせりふの応酬が続く中でそれを構築していかなくてはなりません。そこに難しさを感じています」

 そして舞台上に現われるのは、綱豊と助右衛門それぞれのせりふを受け止め、お喜世としてその時間を生きることで生まれる一期一会のリアルな感情。そこに生の舞台の醍醐味があります。

2022.02.12(土)
文=清水まり
撮影=杉山秀樹