身体表現はアイドルにはたしかに欠かせない要素だが、世の多くのアイドルのなかでもとくに香取は何事においても体が先に動くという印象が強い。
俳優としても、体格のよさもあって、画面に映っているだけで存在感を放つ。そこから意欲を搔き立てられるつくり手も多いのだろう、彼の出演作には冒険的ともいうべき作品が目立つ。
何をしでかすかわからない雰囲気
昨年12月に放送されたNHKのスペシャルドラマ『倫敦(ロンドン)ノ山本五十六』も、昭和の海軍軍人・山本五十六を香取が演じるという異色の取り合わせで、1934年の第二次ロンドン軍縮会議の予備交渉を描いた。香取扮する山本は、他国との交渉のなかで当然ながら理知的な部分を発揮する一方で、海軍の意向と自身の考えの相違から葛藤したり、かと思えば親友に対しては稚気をのぞかせたりと、さまざまな面を見せ、彼にしか演じられないものを感じさせた。
SMAP解散後の俳優としての出演作にはこのほか、白石和彌監督の映画『凪待ち』、三谷幸喜作・演出の舞台『日本の歴史』やAmazonプライムビデオの配信ドラマ『誰かが、見ている』などがある。昨年には『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』でSMAP解散後初めて民放の連続ドラマで主演を務めた。
近年の出演作を見ると、シリアスな作品でもコメディでも彼が演じる役はどこか謎めいていて、何をしでかすかわからない雰囲気がある。それだけに、その一挙手一投足に知らず知らず釘づけにさせられてしまう。
本人も日頃から意識してミステリアスなところを残しているふしがある。ブログ「空想ファンテジー」では、「このブログに書かれているお話は全て僕の[空想][ファンテジー]です」と、本当のことは書いていないと謳っているほどだ。そこには芸能人たちがSNSでこぞってプライベートを公開している昨今の風潮への疑問もあるらしい。
プライベートを公開しない理由
《香取慎吾自体がみなさんが作ってくれたものでもあるし、全部が見えないからアイドルって楽しいはずなんですよね。でも最近は、表に出る人たちが全部見え過ぎちゃっていて。ファンの人たちはアイドルに対してもっと夢見てたいはずなんですよ。僕もSNSを始めたけど、その中で見えていない部分もいっぱいあると思う》(『キネマ旬報』2019年6月下旬号)
2022.02.09(水)
文=近藤 正高