#240 Nachi Katsuura
那智勝浦(和歌山県)

「温泉でも行きたいなぁ」

 せっかくなら海の近くの温泉を……と、たまたま目にとまったのが、巨大な洞窟内にある忘帰洞(ぼうきどう)。

 ぽっかり開いた洞窟に温泉があり、光り輝く熊野灘(太平洋)へと開けたロケーション。豪快な岩の合間から望む、海のブルーも美しく、「行ってみたい!」と和歌山県の那智勝浦へ。

 南紀勝浦温泉は県下一、177の源泉数を誇る、和歌山県きっての温泉地。日本の温泉の多くは火山が熱源となるのに対し、こちらは海のプレートが沈んでいく際に発生する高温流体が熱源となる珍しい温泉です。

 目指す忘帰洞があるホテル浦島は、勝浦港を太平洋の外海から守るようにのびた狼煙半島すべてが敷地になっています。その昔、熊野灘に現れたクジラや黒船を発見した際、狼煙をあげて知らせたことから名前が付いたという、山がちの半島です。

 大正時代に創業したホテル浦島は、東京ドーム4.5個分に相当する広大な敷地に、4つの建物が地形を生かして配置されています。そして源泉が10カ所もあり、敷地内だけで雰囲気も様々な5つの温泉めぐりが楽しめます。摂氏50度の硫黄分を含む、高濃度な温泉で、湯量も豊富。大浴場は源泉掛け流しです。

 お目当ての忘帰洞は、隆起した岩層を熊野灘の荒波が削り、風雨に浸食された間口25×奥行き50×高さ15メートルもの巨大な洞窟内にあります。平安末期から熊野詣でに訪れた貴族が立ち寄った由緒ある名湯で、紀州藩主の徳川頼倫公が「帰るのを忘れさせるほど」と感動したことからその名が付いたそう。

2022.01.29(土)
文・撮影=古関千恵子