日本は世界の中でも数多くの風習が残っている珍しい国

 古くより伝わる山伏の活動は祭を担ったり、物や情報を各地に運んだり、人を里から山に案内し山菜を振るまったりなど多岐に渡り、芸術的な活動もそのひとつだった。坂本さんも創作活動を行っており、2年に一度開催される「みちのおくの芸術祭 山形ピエンナーレ」や「石巻リボーンアート・フェス」などに参加している。山形のアートの現状について伺ってみるとーー。

「山形のデザインやアートは、美術家や研究者が集まる東北芸術工科大学(芸工大)が牽引しています。市内を見回してみるとポスターや商品パッケージなどは洗練されたものが多い。

 芸工大主催の山形ピエンナーレではデザイン会社『アカオニ』と一緒にポスター制作に携わりました。車に轢かれた動物の毛皮をなめしたり、樹木の皮など伝統的に東北の山の民が使用してきた素材で衣装を手掛けました」

 2021年秋には奈良県の「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」にも参加し、“口から出るもの入るもの“をコンセプトにした。

「口から出るものとは、物語のことで、入るものとは食べ物。モノガタリのモノとは古代において自然に宿る霊的なモノを意味したそうですが、祭りや儀礼に目を向けてみると、例えばお正月に魂を象徴するモチを食べるなど、祭の中で特別な食べ物を食べて世界との一体感を持とうとしてきた文化がありました。

 今回は、その土地の物語をテーマにした食べ物を作ることで、その土地とのつながりを作り出そうと食べ物をモチーフに選びました。食は身体の外と中をダイレクトに繋ぐものですからね」

 土地に古くから伝わる風習は、文献で下調べをした上で、地元の人々から生の声を拾っていくという。

「いろいろな方々に話を聞いていると、違う話が繋がっていたりするんです。例えば山形では6月1日に芋汁を食べる『むけ日』というのがあるんですが、これが脱皮を意味するものじゃないかと言われており、脱皮をする生き物が命を更新しているように見えることから不死や月の神話と関わりがあると考えられています。

 僕が暮らしている西川町では『ぬけがらの日』というそうです。でも、それがどんな日だったのかという記憶は無くなっていました。秋田の『なまはげ』も同じように皮を剥いで生命を新しくする祭りという説があります。このように遠く離れた地域との繋がりが日本の各所にあるんです。

 世界的見ても祭りや風習が日本ほど残っているところは少ない。ただ、それを繋げるための知識が年々失われているのがもったいないことだと感じています」

2021.12.29(水)
文=CREA編集部
撮影=志水隆