今までにない表現の世界を存分に楽しめる
例えばフランス出身のフェリックス・パンキエはバッグなどの革製品の工房に滞在。音楽家でもある彼は「音」を空間的に表現する作品で知られる。パンキエの作品「ステーション」は連結された笠状のフレームに黒いレザーを張った立体。巨大な蛇腹のような形は、音の波形を表現したものだ。またパリを拠点とする日本人のアツノブ・コヒラ(小平篤乃生)は、クリスタル・ガラスの工房として有名なサンルイ(1989年にエルメスが買収)で作品制作を行った。「サンルイのための楽器」と題された作品は、クリスタル・ガラスの球体のなかに時を刻む1針の機械を組み込んだ立体で、針がガラスに触れることで毎分ごとに7つの異なった音程(全体で1オクターブとなる)を発するようになっている。針の動きは通常の時計とは逆回りで、時間を過去へと遡るように進んでいく。そのことは16世紀に誕生したサンルイ工房の長い歴史を暗示している。
職人の高度な技術とアーティストの自由な発想が結びついたとき、そこには今までにない表現の世界が現れる。その楽しさを存分に味わえる展覧会だ。
なおこの「コンダンサシオン」展はパレ・ド・トーキョーが外部の若手キュレーター21人を起用して開催するアート・イベント「ヌーヴェル・ヴァーグ」の一部となっている。9月9日までの「ヌーヴェル・ヴァーグ」の会期中はパレ・ド・トーキョー館内およびパリ市内で計53の展覧会が開催される予定だ。
「コンダンサンシオン」展
期間 2013年6月21日~9月9日
場所 パレ・ド・トーキョー(パリ)
URL palaisdetokyo.com/fr
【同展は下記の会場に巡回する予定】
メゾンエルメス8階フォーラム(東京)
期間 2014年3月~5月
アトリエ・エルメス(ソウル)
期間 2014年9月~11月
鈴木布美子 (すずき ふみこ)
ジャーナリスト。80年代後半から映画批評、インタビューを数多く手掛ける。近年は主に現代アートや建築の分野で活動している。
Column
世界を旅するアート・インフォメーション
世界各地で開かれている美術展から、これぞ!というものを、ジャーナリストの鈴木布美子さんがチョイスして、毎回お届けします。
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2013.07.31(水)