●「逃避行」をテーマに、香港ロケしたMVが高く評価

――個人的には、「Girls be Free!」「好きだ。」など、ブレイク前のLittle Glee MonsterのMVも印象的でした。

 彼女たちにも決して無理をさせないこと。ナチュラルさや等身大らしさを心がけて撮りました。「Girls be Free!」に関しては、リアルに渋谷や原宿にいそうなメンバーの子を街に溶け込ませると相性がいいかなと思っていましたし、「好きだ。」に関してはハウススタジオの中でワンカット長回しをやりました。

 僕自身、自然光を使ってノーライト、カメラはハンディ、被写体を街と一緒にエネルギッシュに切り取るヨーロッパのヌーヴェルヴァーグ時代の作品が好きなんです。また、それが自分のスタイルだと思っているので、ロケがメインになることが多いんです。

――それは17年に発表されたMV、MONDO GROSSO「ラビリンス [Vocal : 満島ひかり]」にもいえますね。この作品は「MTV VMAJ 2017」にてBest Dance Video を受賞しましたが、なぜ香港ロケだったのでしょうか?

 テーマが「逃避行」だったので、雑多で混沌とした街並みに逃げ込んでいく感じ。あとは、日本人から見て「ここは何処なの?」と思ってしまうようなヴィジュアルの強さ。そこに、満島ひかりさんを置いてみたかったんです。それでいろいろアイデアを出し合って、最終的にたどり着いたのが香港でした。

 満島さんもウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』が好きだったこともあり、決まってから10日ほどで、香港に飛びました。地面を濡らすため、散水車も用意していたのですが、そこでスコールが降るような偶然も起きたり、結果的に自分の代表作になって、とても嬉しいです。

――そして、このたび公開される監督作『スパゲティコード・ラブ』にも『恋する惑星』の影響がみられます。東京を舞台に13人の若者たちの日常が描かれた群像劇で、丸山監督は原案としてもクレジットされています。

 自主映画の時代から自分がクリエイトした映画を撮れていなかったので、自分の集大成といえるオリジナル作品を一本作りたいという気持ち、そして、今の東京という街でもがいている若者たちを自分のスタイルで描いてみたいという気持ちから始まりました。そのため、自分発信で作品に出資してくれる会社を探しました。

●興行的、文化的に海外に認められる日本映画を撮りたい

――その後、実際に製作が始動して、完成までの期間はいかがでしたか?

 登場人物も最初は5人だったのですが、どんどん増え、自分が伝えたいメッセージや思いを語るために、結果的に13人にまで増えました。そして、脚本化していくなかでも、いろんな変化も起こりました。ただ、自主映画を作っていたときは本当に大変だったのですが、今回は助監督を始め、映画のプロだったり、一緒にMVやCMを作っていた仲間が集まってくれたことで、何の不安もありませんでした。そして、とにかく熱量が高くて、本当に楽しかったです。

――本作を通じて、監督が伝えたい具体的なメッセージを教えてください。

 映画のマジックによって、些細なことで悩んでいるような日常を肯定したかったし、毎日が救われるような作品にしたかったんです。僕自身も若いときに、ミニシアターで観てきた映画に、たくさん救われてきましたから。

――今後の目標や展望、憧れの監督などを教えてください。

 「Nippon Cinema Now 部門」に出品された東京国際映画祭での上映では、お客さんの「心に刺さりました」という意見もあったりして感無量でした。また、海外の映画祭にも出品されていることもあり、今後は目の前にあることをやりつつ、時代の空気を読みつつ、興行的にも文化的にも海外に認められる日本映画をどんどん作っていきたいと思います。

丸山健志(まるやま・たけし)

1980年2月23日生まれ。石川県出身。2004年に脚本・監督を務めた自主制作映画『エスカルゴ』でぴあフィルムフェスティバル入賞。その後、数多くのMVやCMを手掛け、15年にはドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』を監督した。17年に手掛けたMV、MONDO GROSSO「ラビリンス [Vocal : 満島ひかり]」は、「MTV VMAJ2017」Best Dance Videoを受賞。

『スパゲティコード・ラブ』

大好きなアイドルへの思いに区切りをつけるため、配達1,000回を目指すフードデリバリー配達員の天(倉 悠貴)や、カフェで片思いの桜(xiangyu)と噛み合わない会話をする高校生・圭(青木 柚)など。東京をさまよう13人の若者たちの行動が複雑に絡み合い、物語は思いも寄らぬ方向へと転がっていく。
https://happinet-phantom.com/spaghetticodelove/
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