表現者であり、芸術家であり、哲学者の佇まいも感じさせる森山未來。映画にドラマ、現代演劇に古典芸能、コンテンポラリーダンスに舞――。ひとところにとどまらない彼の表現領域を一言で言語化することは困難であり、途方に暮れてしまうほど。

 映画においても、日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』(2020)では海外映画の初主演を飾り、『アンダードッグ』(20)ではボクサー役に挑戦。常に新たな場所へと歩を進める彼だからこそ、最新主演映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』(11月5日劇場公開&Netflix配信)では「21歳から46歳を演じる」という難役を見事にやってのけた。

 「CREA Traveller」にて連載中のコラム企画「The future with no name」の中でも、本作について綴っていた森山。今回の単独インタビューでは、その部分を出発点に、彼の思考の森に分け入った。

突発的な事件性から生まれる物語以外もやりたい

――「CREA Traveller」の連載の中で、本作において「ここ何年か恋愛映画に興味があった」と書かれています。興味を抱くようになった理由には、どんなものがありますか?

 自分が犯罪者だったり殺されたり、特殊なキャラクターを演じる機会が最近は多く(笑)、突発的な事件性から生まれる物語以外もやれたらと思っていました。

 人と人が関わるという意味では色々なシチュエーションがありますが、恋愛もそう。僕のジェンダーからすると恋愛対象は女性ですが、そういったかかわりによって発生する物語に改めて興味を抱いていたタイミングで、本作に出会いました。

――恋愛を通して、人と人の交流を描く映画だと、どんなものがお好きですか?

 そうですね……(考え込む)。あまりたくさんは観ていないのですが、パッと思いついたのだと『ポンヌフの恋人』(1991)。これもちょっとアヴァンギャルドな映画ですが(笑)。

 あとは『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(95)などでしょうか。

――森山さんの出演作だと『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)や『モテキ』(10~11)といった恋愛に重きを置いた作品がありますね。

 そうですね。客観的に見て、このタイミングでもう一回やっておいてもいいんじゃないかな? というのは若干ありましたね(笑)。

 ただ今回の作品は、恋愛をコアに置きつつ、職場が変容して人間関係が複雑化していき、その中で年齢を重ねていくところも描いている。そういった意味では、東京で生きる一人の人間の移り変わりと、ずっと引きずっている失恋との対比の物語でもあると捉えています。

――おっしゃる通り、職場での立場がどんどん上になっていくのに対し、ある種変わらない恋愛観が描かれているのが印象的でした。

 映画で描かれる25年間で、阪神・淡路大震災やリーマン・ショック、Covid-19といった日本、もしくは世界的な数々の事件が起こっていて、それらを時制として踏まえてはいる。ただ、そんな中で物語の主人公は相も変わらず仕事に揉まれていたり人間関係に翻弄されている。年を経ていくなかでそういったことに折り合いがつけられるようになってはいくけど、変わらない部分もありますよね。そのひとつとして、“恋愛観”が描かれているのかもしれませんね。

2021.11.04(木)
文=SYO
撮影=榎本麻美
スタイリスト=杉山まゆみ
ヘアメイク=須賀元子