“シンプルに笑えるお笑い”の強さ

――メディアの露出も増えたことで、今までのライブの客層との変化はありましたか?

長谷川 今年やった地方での営業や東洋館での出演の際はファミリー層のお客さんが多くて、その時点でいつものライブの客層との違いは感じていたんですけど。

渡辺 単独ライブは、蓋を開けてみたらお子さんから年配の方までいらっしゃって。幅広かったですね。

長谷川 ライブ界隈での今までの客層は、同世代の男性の方が多かったんです。これまではライブしか出ていなかったので、実質僕らのファン層はそこだけだった。でも、テレビで僕らを知っていただけるようになって、幅広い層に興味をもってもらえるようになったんだなと。

――ファン層の幅広さは、国民的人気者である証拠であり、強みですよね! 昨年のM-1で95点をつけた審査員の志らく師匠が「見終わって冷静に考えると、一体我々は何を見せられたのだろうなと。でもお笑いってこういうのでいいんだなと。」と評価していたのが印象的で。最近は巧妙なお笑いが多いですが、錦鯉の漫才を観て、シンプルに笑えるお笑いの強さというのを改めて感じました。

長谷川 そうなんですよ! お子さんもわかる、お年寄りもわかる、普段お笑いライブに行かない人でもわかる。

渡辺 バカもわかる。

長谷川 というお笑いなんですけど、ただ、10代、20代のお笑いにコアな人たちにはウケないという(笑)。

渡辺 そういう層には、なかなかハマらなかったりするよね。

長谷川 あと、10代、20代の女性で、生理的に僕らを受け付けないという人たちもいるんですよ(笑)。もう、僕らって彼女たちにとってお父さん位の年齢だから。お父さんの洗濯物と一緒の洗濯機で洗わないで! みたいな。

――その層を取り入れようとはしてこなかったですか?

長谷川 そこを取り入れなきゃなと思った時期もありますよ。タピオカを飲んでみたり、そういう若者にも伝わるものをネタに入れたほうがいいのかなと思った時期もありましたよ。あとなんでしたっけ、マクビセルシー?とか。

渡辺 セシルマクビーだよ。もうだめじゃねぇかよ。

長谷川 そういうのも覚えなきゃダメなのかなと思ったりもしたんですけど、無理でしたね。ご覧のように。

渡辺 無理無理、いいのいいの、嫌われる層があってもいいの別に。子どもたちが僕たちのことを好きになってくれて、だんだん成長していって嫌いになったら、それは思春期に入ったということ。そしてまた僕らのことを観出してくれたら、思春期が過ぎて大人になったんだと思っていただけたら。

――今のようなシンプルに笑えるお笑いのスタイルは、最初から意識されていましたか?

渡辺 できるかぎり一番バカなネタをつくりたいという思いはありましたね。この人(雅紀さん)よりバカが似合う人はいないんじゃないかなと思って。

長谷川 最初に言われた時はピンとこないというか、わからなかったですけど。

渡辺 なんでだよ。

長谷川 僕は実際にやってみてお客さんの反応を見ないとわからないタイプなんですよ。隆はたぶんシミュレーションができていて、ちゃんと画が浮かぶんですよね。隆に言われた通りにやってみたらちゃんとウケたので、バカでいいんだというのは発見でしたね。

――錦鯉さん世代は、いわゆるダウンダウン世代という印象がありましたが、真逆のスタンスですよね。

渡辺 僕はダウンタウンさんに憧れてお笑いを始めたみたいなもので、今とは違うテイストでした。でも、どこで変えたかっていう明確なものはないんですよ。結局やっていって、お客さんにウケる方をとっていったらこうなったという感じかもしれないですね。

長谷川 僕らはこっちが求められてたってことなんだろうね。

» 後半に続く(後日公開予定)

『くすぶり中年の逆襲』
遅咲きの反逆中年コンビ・錦鯉の自叙伝!


錦鯉 著
定価 1430円(税込)
新潮社
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錦鯉

ボケ担当・長谷川雅紀とツッコミ担当・渡辺隆からなるコンビ。2012年結成。「M-1グランプリ2020年」「M-1グランプリ2021年」2年連続ファイナリスト。

2021.12.02(木)
文=綿貫大介
写真=佐藤亘