はっぴいえんどのときは、詞を大学ノートに横書きで書いていた。作詞家になったら、松本隆と名前が入った原稿用紙を渡されて、それに縦に書けと言われた。録音スタジオに行くと、阿久悠さんの詞の直筆の原稿用紙が壁に貼ってあったりするのだが、ぼくはなんだか縦に書くのは恥ずかしかった。原稿用紙を横にして、横書きに使った。

 そのうち書くときに手が震えるようになった。書痙という症状で、緊張が指先に行くと震える。速記者や書記といった字を書く仕事の人に多い職業病みたいなものだ。その頃、ちょうどワープロが出て、使い方を覚えて、プリントした詞に、サインした表紙を付けて渡すようになった。印字された詞じゃいやだと、太田裕美には怒られた。今まで直筆の詞を全部大事に取っておいたのに、これからは印刷された詞なのかって。

 縦書きにするとニュアンスが違ってくる。ぼくより前の人たちは縦に書いていたけれど、ぼくから後の作詞家はみんな横に書くようになった。

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《大滝詠一に責められても…》「歌のなかでくらい、いい思いをさせてあげたい」松田聖子曲の作詞時にもブレなかった松本隆の“創作信念” へ続く

2021.11.20(土)
文=藤田久美子