『メイン・テーマ』(歌/薬師丸ひろ子、曲/南佳孝、1984年発売)は、角川映画の主題歌として依頼された。「愛」なんて単語はほとんど死語になっているという感覚が出発点で、だからせめて歌の中だけでも「愛」を語る必要があるのだろうが、あえてクエスチョンマークを投げ込んでみようというのがメイン・テーマだった。
「愛ってよくわからない」と言い切ってしまうラブソングも例がないと思う。
〈 好きと言わない あなたのことを
息を殺しながら考えてた
愛ってよくわからないけど
傷つく感じが 素敵
(『メイン・テーマ』)〉
使わないことば、使いたくないことば
否定形と人称代名詞は、使わないよう気を付けている。
「会えない」「行かない」「来ない」「忘れない」。否定形を使うと書きやすいし、お洒落な雰囲気も出る。否定形を多用するヒットメーカーもいるけれど、それを反面教師にしようと思った。否定形を使わないのは難しい。肯定しながら陰影を出すのは難しいのだ。ポジティブに影を表現するということ。100%使わないわけにはいかないが、使わなくてはならない最小限度に絞る。
小坂忠に書いた『しらけちまうぜ』(曲/細野晴臣、1975年発売)が、『スニーカーぶる~す』や『硝子の少年』以前に失恋をポジティブに表現できた最初だと思う。ジャニー喜多川さんが気に入ってくれてジュニアに入る子の課題曲にしてくれたから、ジャニーズはみんな歌えたらしい。ジャニーさんのオーダーで失恋をテーマにした曲をいくつも書いているが、それもこの曲が原点になっているのだと思う。クレイジーケンバンドの横山剣や小沢健二もカバーしてくれた。
〈 涙は苦手だよ 泣いたらもとのもくあみ
しらけちまうぜ
いつでも傷だらけ 愛だの恋は今さら
しらけちまうぜ
(『しらけちまうぜ』)〉
人称代名詞も、言わないで済むのならなるべく使わないほうがきれいな日本語になる。「あなたの」と言うと、音符を四つも使う。貴重な音符を使うのだから、その四つで別なことを言いたい。詞に無駄なことばを使わないのは西洋も東洋もいっしょだが、究極は俳句だろう。松尾芭蕉を超えた詩人は未だいないと思う。芭蕉から学んだことばのテクニックはたくさんある。
詞が先か、曲が先か
詞が先にあって歌ができるのですか、それとも曲が先ですか、という質問を受けることがある。ぼくは両方である。はっぴいえんどはほとんど詞が先で、詞を書くのに苦労した記憶はない。作曲の担当者が、曲作りに苦労したこともそれほどなかったはずだ。ぼくの詞にメロディをつけるということに関しては、みんな才能の塊のような人たちだった。細野さんも大滝さんも、松本の詞は曲をつけやすいとよく言っていた。イメージが広がるから先に詞をくれと言われた。
2021.11.20(土)
文=藤田久美子