開幕中ツイッターの評判が凄かった。「すごいものを観た」と絶賛のコメントがドカドカと流れてきていたので、ネタバレを封印し待ちに待って、9月発売と同時にブルーレイを手に入れた。

「眠れる森のビヨ」という珍妙なタイトルに油断した。迷いこんだのは、想像の10倍美しくダークな森の中。夢と現の間をさまようような、悲しくも愛しい世界だった。

 夜寝る前に観たが失敗した。次の朝、自分がどの世界にいるかわからなくなってしまった。観た方はどうやって気持ちの整理をしたのだろう。教えてほしい……。

 ストーリーは「崋山高校演劇部の、何かが違う日々」、とだけ書いておこう。

 主役・ヒカル役の平井美葉はセリフ量が膨大だったが、観終るまで「大変そう」と一回も思わなかった。それほど台本のセリフを言っている感じではなかったのだ。役が憑依するというか、ゾーンに入るというのはああいうことなのかもしれない。

 そしてヒマリ役の島倉りか。ひとりぼっち、もしくは平井美葉と2人のシーンが多く、凄まじく孤独だったのではなかろうか。その孤独感を見事生命力に昇華させていて、彼女が泣くシーンでこちらも泣きに泣いた。

 私が目が離せなかったのは、カナエを演じる里吉うたの。リズム感と独特の浮遊感の使い分けが凄い。この人がいるといないとでは、きっと芝居全体のテンポの心地よさが全然違う。そして山上部長役の江口紗耶。男役が自然で本当に驚いた。THE ALFEEの坂崎幸之助さん的な、さりげないが、確実に場を包み込む大きな大きな包容力を感じた。

 誰か一人が飛びぬけて上手いというのではなく、12人全員が上手い。そして同じ方向を見ている。まるで精鋭が揃った小劇団のような空気さえ感じた「森ビヨ」。

 もう「ビヨ雪姫」だろうが「ビヨデレラ」だろうがなんだって観る覚悟はできている。できれば「ガラスの仮面」か「ウエストサイドストーリー」をやってほしい! 嗚呼、BEYOOOOONDSは観た後、次はあれもこれも、と欲が出る。

2021.10.29(金)
文=田中 稲