母や私や弟には、厳し過ぎるほど厳しいくせに、自分は「飲む、打つ、買う」をフルでこなして、やりたい放題。そんな父にずっと嫌悪感と反抗心を抱いていた私は、早く家を出たくてたまらなかったのだ。

 

 この結婚は父が最も反対していたからこそ、絶対に叶えてやろうという気持ちになったことは否定できない。

 それから、結婚を決心できた理由のもう1つは、希林さんだ。「結婚したら芸能界を引退して欲しい」という吉田さんの要望にも悩んでいた私に、希林さんは、「結婚することも、専業主婦になることも良いことよ」と背中を押してくれた。

あまりにもストレートな物言いに驚き

「専業主婦をちゃんとやれたら、人間として何でもできるようになるわよ。家を切り盛りするんだよ。しかも、報酬もないのに、家族のために尽くせるなんてすごい仕事だよ。美代ちゃん、やってごらんよ」

 その言葉が私を前向きな気持ちにしてくれた。しかも、希林さんは、この結婚に反対する両親を説得しに、我が家に来てくれた。いつものように、希林さんは突然家にやってくると、母と向き合ってこう言った。

「お母さん、心配なのはわかります。でも、結婚は本人の自由ですよね。それに、美代ちゃんはもうやられちゃったんですから」

 あまりにもストレートな物言いに、一緒にいた私も心臓が止まりそうになったし、母親も驚きのあまり、ぽかんとした後にさめざめと泣いていた。

 あの瞬間は、思い返しても修羅場としか言いようがない。しかし、希林さんのおかげかはわからないけれど、結局、両親にも許されることとなった。かくして、私は21歳で結婚した。そして、7年間の結婚生活を経て、離婚した。

結婚は分別がつかないうちにしたほうがいい

 結婚している間は希林さんとは疎遠になった。

 たぶん、芸能界の風のようなものを私に匂わせたくなかったのだろう。結婚する時も私の背中を押して、たくさんの力をくれたけれど、希林さんは直感がずば抜けて鋭いところがあるから、いつか私の結婚が綻んでしまう可能性があることも、当時から予感していたのかもしれない。それでも、私が選んだ道を応援してくれる人なのだ。

2021.10.09(土)
文=文藝出版局