付き合って1年でプロポーズ…両親は大反対
2人の関係がスクープされてからは、周囲はてんやわんやしていたものの、吉田さんは、付き合って1年目くらいでプロポーズしてくれた。行きつけのBARで2人で話していた時のこと。
一瞬、おしゃべりが止まると、吉田さんはコースターを手に取り、その裏側に何かをさらさら書いて、私に渡してくれた。そのコースターを裏返すと、「結婚しよう」と一言だけ。
その演出のスマートさもさることながら、ここから、自分の人生がまた変わっていくのかと思うと胸が高鳴った。とはいえ、全く迷いがなかったといえば、嘘になる。
当時の私は、まだ子供だった。芸能界に入って怒濤の3年半を過ごしてきたけれど、年齢的にもキャリア的にも技術的にも、芸能人としての浅田美代子は、まだまだこれからであろうということは、誰に言われずとも私自身がわかっていた。
両親は大反対だった。もともと厳しくて保守的な父と母は、「まだ19歳だし、相手がミュージシャンだなんてあり得ない」と思ったようだ。特に、父親は怒り狂っていてとりつくしまもなかった。
結婚の話を切り出すと激昂して、家の2階にある私の部屋へと向かうと、「出ていけ!」と洋服ダンスから私の服を一度に何枚もつかみ取り、窓からブワッと一気に放りなげた。
驚いて、慌てて2階の窓から身を乗り出すと、盛大にまき散らされた色鮮やかな洋服たちが、道路一面に広がっているのが見えた。まるで花が咲いているようだなと、妙に冷静に眺めていたのを覚えている。短気な父親に辟易しながら、どこか客観的にその光景を眺めてもいた。
結婚を決めた2つの理由
事務所も仕事仲間も反対だった。それでも、最終的に私が吉田さんとの結婚を決めたのは、ただ恋に溺れていたからだけではない。結婚を決めた理由は、主に2つある。
1つは、あまりにも多くの人に強く反対されたから。生来、私には「何事も反対されると燃え上がる」という気の強さやひねくれた部分があるのだ。そういえば、母も反対されながら結婚したという。芸能界に入ってからは、あらゆることを我慢し続けて、自我を押し込めてきたことへの不満も一気に爆発したのだろう。そして、何より父親への反抗心が大きかった。
2021.10.09(土)
文=文藝出版局