「おっさんずラブ」をとことん深掘り!

E 私の友人は、紀元前・紀元後じゃないですけど、日本のBLドラマは「おっさんずラブ」以前・以後みたいに語られるはず、と言っています。男性同士の恋愛を周りが手放しで祝福して、本人たちも同性を愛することに悩みすぎていない。そんな作品は日本のドラマでは観たことがなかったのでユートピアみたいだなと。こういう世界が来るといいねという想いをドラマが先にやったんだなって。

K 実際まだ差別があるから、そういうのをあえて書くのももちろんありだけどね。90年代頃から、小説やマンガでは「俺、男なのにいいの?」みたいなセリフが一切なく、男性がごく普通に男性を好きになる作品が出てきた。実写じゃないから可能だったけど、それがドラマでもできるようになった。

E 「おっさんずラブ」は作り手もどんどん勉強していったんだと思います。最初はハラスメントじゃないの? ってハラハラしたけど、そういうアウトな表現がどんどん無くなっていって進むうちにドラマに没入できた。

K このドラマが新しいなと思ったのが「オカマ」「ホモ」はもちろん「ゲイ」や「そっちの人」とかを、禁止ワードとしていたんじゃないかってくらい使ってなかったこと。

O 戸惑っているのは、はるたん(田中 圭)だけ。当事者だから牧(林 遣都)に対して冷たくするのも部長(吉田鋼太郎)に怯えるのもしょうがないように見える。

K 男だからイヤだというわけではない。

E プロデューサーさんに取材もしたんですけど、男同士の「月9」みたいな感覚で作ったんですって。多分、それが良かった。LGBTQに特に詳しい人が書いたわけではなく、ライトなノリで作られた。それで逆に今のリアルを飛び越えられたんじゃないかと思います。

K 「おっさんずラブ」は厳密にはBL原作の作品ではないですが、ライトなノリで恋愛を描くという精神がBLと共通しています。で、いいBLドラマは役者さんが神がかった演技をしている。

O そうなんです、そうなんです!

K 脚本がコメディでパワーがあるぶん、演技力がない人が交じってたら大変。

E 大災害! (笑)

K 全員が細い綱の上でアクロバットをしているような素晴らしい演技をしていますよね。

K やっぱりエスムラルダさんも「おっさんずラブ」にはハマったんですか?

E もう大好きで最後は大号泣(笑)。大塚寧々さんとか内田理央さんも良かった。

O そうそう、全部良かった! 演技派の俳優を使ってくれているのもスゴい良かった。林 遣都さん、巧すぎない!? って。

K 私はこれまで実写をあまり見てこなかったんですけど、最初にBLではないですが「HiGH&LOW」にハマったんです。“ハイロー”は服もチームで色分けされてて、アニメみたいに作ってあるんです。林 遣都くんも出ていて、私のなかでは達磨一家の日向のイメージが強かった。『少女革命ウテナ』のラスボス鳳暁生と同じように車のボンネットに乗ったりするんですよ(笑)。「おっさんずラブ」ではこんな柔らかい役もできるんだ! と思いつつ、もしかしたら「狂犬」なのではと見てしまう(笑)。

O 「おっさんずラブ」で好きなシーンを挙げるとなるとキリがないんですけど、はるたんが、ちず(内田理央)に海で告白されそうになって、初めて牧のことをちゃんと好きだって言うシーン。なんで私たちが見てるのに牧が見てないんだ! ってなって。

一同 (爆笑)

O あと、2人でデートするシーン。

K いいですよねえ。映画版でも花火を見に行ってケンカするシーンがあまりにもリアリティがあって。

O 牧の実家で唐揚げを食べるシーンもいいんですよ! 6話がめっちゃ好きなんです! 好きが詰まってる! こういう幸せ家族で育ったからセクシュアリティを否定せずに来れたのかなって想像できる。その後、地獄のシーンが待ってて泣くんですけど(笑)。

K 第6話見直さなきゃ(笑)。私はBLマンガ好きの人とかゲイの友達がハマったって聞いたから「おっさんずラブ」を見始めたんです。やっぱりエンタメとして飽きさせないプロ魂は随所に感じました。泣くほどハマれてないのが申し訳ないんですが……。

O いえいえ、私は提供されたものをそのまま受け入れるタイプだから夢中になれたんですけど、BL好きの友達でもハマれない人はいました。

K オリジナルBLを好きな人と二次創作が好きな人とは少し違うんですよね。多分お友達の方も二次創作好きで作品のなかに自分の好きな関係性を見出すタイプじゃないかな。

「おっさんずラブ」

おっさん同士のピュアな恋愛群像コメディ

女好きだけど、全くモテない33歳の「はるたん」こと春田(田中 圭)。そんな彼に愛の告白をしてきたのは、ピュアすぎる乙女心を隠しもつ上司の黒澤部長(吉田鋼太郎)と、同居しているドSな後輩の牧(林 遣都)。この三角関係を中心に描いたラブコメディ。

2021.10.03(日)
Text=TV No Sukima
Photographs=Ichisei Hiramatsu
Hair & Make-up=Yoko Fuseya(ESPER)〈Okarina〉

CREA 2021年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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